忘 却









”忘却とは忘れ去る事なり
  忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ”


昭和の昔に流行ったラジオドラマの
有名な冒頭のナレーションである


忘れられないのに
忘れようと苦しむのは何と哀しい事だろう
何と切ない事だろう

いっそ身を切られた方が
どんなに楽かと
誰もが一度くらいは
それに近い事を思った事があるに違いない

解決をするのは時か否か?


元来
人間には”忘れる”と言う能力が備えられている

もし人間が
生きた間の悲しみや辛さ
後悔や苦しみを忘れる事無く
その全てを克明に覚えていたとしたなら
おそらくは人間の寿命は
今の半分以下だった事だろう

人間の神経は
凡そ
その呵責や悔恨には
おそらくは耐え切れない

忘れると言う事が無ければ
歳月は
或る者の精神を病み
また
或る者は死を糧とした事だろう


忘れる事は罪では無い

忘れる事で人間は
知らず知らずのうちに気持ちがリセットされている

どんな暗闇の中にいてでさえ
希望と言う小さな灯を見つける事が出来るのも
忘れると言う能力の裏返しでは無いかと思う

希望は時として人間を裏切るが
それさえも忘れられるから
人間は生きていけるのだろう


忘却
それも生きる為の本能なのだ

だが
忘れられない事を無理して忘れる事も無い
忘れようとすればする程
忘れられないのも
また人間の性質なのだから

在るがままの忘却
無いが故の忘却

それも生きていると言う事なのだろう



































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