ひみつ道具
幼稚園年長の弟君と小学三年生のお姉ちゃんが
国民的アニメキャラの
そう、あの首に鈴を付けた青いネコ型ロボットです。
そのアニメを観ていました。
番組を観終わると
一緒に見ていたお母さんが子供達に訊きました。
「ねぇ、ひみつ道具は何が好き?」
弟君は元気に答えました。
「ボクは<タケコプター>!
だって、何処でも空を飛んで行けちゃうんだよ」
「私は<どこでもドア>ね。
わざわざ飛んで行かなくたって
ドアを開けたらすぐに行きたい所に行けるんだよ」
お姉ちゃんはしたり顔で答えました。
「ねぇ、お母さんは何が欲しい?」
弟君の問いにお母さんは少し考えてから答えました。
「そうねー <コピーロボット>かな。
代わりにお掃除とか料理とかやってくれたら助かるわ」
「お母さん、ずるーい!」
「えー? そうかな?」
「そうだよ、ずるーい」
「あはは」
「あはは」
そこにお父さんが帰って来ました。
「おや、何だか楽しそうだね。何の話だい?」
「あのね。
今、ひみつ道具は何が欲しいって話をしてたんだよ」
弟君は駆け寄ると
いつものようにお父さんの腕にぶら下がりながら言いました。
「おいおい、重たいよ」
そう言いながらもお父さんは腕をブランブランさせて
弟君をブランコのように振り回します。
「きゃー、怖いよー でも、楽しい! キャハハ」
「あー、ずるーい! お父さん、私も私も!」
「ダメだよ。ボクが先だもん」
「はいはい、ケンカはやめようね。
で、何だって?」
「そうそう! ひみつ道具よ。
お父さんは何が欲しい?」
「君たちは何が良いんだい?」
「ボクは<タケコプター>」
「私は<どこでもドア>」
「ねぇ、ねぇ。お父さんは?」
矢継ぎ早に子供達は訊きました。
「お父さんかい? そうだなぁー・・・」
お父さんは考えながら独り言のように呟きました。
「<どこでもドア>かぁ?
って、ことは・・・自由に? ムフッ。
いや、待てよ!
それより<とうめいマント>とか・・・ニヤニヤ。
いやいや、それなら・・・
<とうしめがね>というのも・・・ムフッ。
いや、迷うなぁー。どうしよ? ニヤニヤ。
いやでも、<もしもボックス>も捨てがたいしなぁー」
「あなた?」
「えっ?」
お父さんは我に返ってお母さんを見ました。
すると
お母さんはすごい怖い顔で睨み付けていました。
「な、な、なんだい?」
「あなた。
まさか子供達の前で変なことを考えていないわよね?」
<ギクッ!?>
「な、何を言うんだい?
そ、そっ、そんなことはないよ」
「どうだか?」
お母さんはお父さんにこれ以上ないくらいの
冷ややかな視線を浴びせています。
「な、なんだよ?」
お父さんがお母さんの視線に耐えかねて
ドギマギしているとお姉ちゃんが訊きました。
「ねぇ。お父さんどうしたの?」
「なんでもないのよ。
さっ、もうすぐご飯よ。
あなた達はあっちで遊んでらっしゃい」
にこやかな笑顔でお母さんは
子供達を隣の部屋に送り出しました。
その笑顔は最上級の作り笑顔のように
お父さんには見えました。
それからお母さんはお父さんの方に向くと
腰に手を当てながら嫌味っぽく言いました。
「あなたの考えたことを当ててみましょうか?」
「な、なんだよ?」
「とってもいやらしいことを考えていたわよね?」
「何を言うんだい。
子供達の前でそんな訳はないじゃないか、あは」
「どうだかね」
お母さんは不敵な笑みを浮かべています。
『こいつ、なんで解るんだよ?
危ないな・・・<どくさいスイッチ>押したろか』
お父さんはお母さんの勘の良さが怖くなりました。
「あらっ、あなた。
<どくさいスイッチ>でも押すつもり?
まぁ、持っていたらだけど? オホホ」
<ギクッ!?>
『な、なんで? ホントにこいつは俺の心が解るのか?』
お父さんは青くなりました。
「あら、どうしたの?
あのロボットみたいに青くなってるわよ」
「うっ・・・」
お父さんにはもう返す言葉がありませんでした。
『こいつ・・・
まさか<ホンネ吸いだしポンプ>でも
使ってるんじゃないよな?』
いやいや、お父さん。
そんな訳ないじゃないですか(笑)
ひみつ道具なんて無くたって
お母さんにはお父さんの考えは全て解るみたいですよ。
なんて言ったってあなたの奥さんですからね。
その証拠にちゃんとあなたを手なずけているでしょ?
<桃太郎印のきびだんご>なんか使わなくたって。
いや、実はそのきびだんご・・・
もう既に使われていたりしてね(ニヤリ)
(注)
この話はあくまでもフィクションであり
実在するどの個人、家庭も無関係です・・・たぶん