今、そこに在る恐怖!?








   <第1話> 携帯電話


夕食後の団欒。
そう言えばと妻に話しかけた。

「知ってる?
 田中のとこの離婚の原因」

「田中さんの浮気でしょ?」

「そうなんだけどさぁ〜
 でも、なんでバレたと思う?
 携帯だよ。
 奥さんが田中の携帯を内緒で見たら、
 浮気相手との熱々なやり取りがあったんだってさ」

「自業自得よね」

と、妻はバッサリ。

「いやぁ、そりゅまそうだけどさ。
 でも、普通は旦那の携帯を勝手に見るか?」

「やましい事が無ければ別に良いんじゃないの?」

「でもさ、プライバシーの侵害だろ?
 いくら夫婦でもそりゃないよ。
 誰かがテレビで言ってたけど、
 旦那や奥さんの携帯なんか見るもんじゃないってさ。
 何も無いとしたって見られた方は
 疑われているみたいで嫌じゃない?
 そんな小さな亀裂が
 いつか大きくなるんだってさ。
 お前だって俺が勝手にお前の携帯を見たら嫌だろ?」

「当たり前よ!
 そんな事をしたら即離婚だからね!」

「そしたら、お前も俺の携帯を勝手に見るなよ」

「見ないわよ。
 どうせ、貴方のところに来るメールって、
 何処かのお店のメールマガジンや
 田中さんと谷さんと一之瀬さんくらいでしょ?」

そう言うと、妻はニヤリッと笑った。


『ゲッ!?
 何でそこまでハッキリ知ってるんだ?』




*********************




   <第2話> へそくり


「そういやさ。
 明日は会社の飲み会だから」

「あっ、そう。
 勝手に行けば?」

「なんだよ、その言い方」

「だって、私には関係無いもの」

「関係無くは無いだろ?
 会社の付き合いは仕事みたいなものなんだから」

「上手い事を言って。
 結局は飲みたいだけのくせに」

「違うよ。
 付き合いだから仕方なくさ」

「で?」

「だから、飲み代・・・頼むよ」

「いやよ。
 自分が飲みに行くんだから
 自分で出せば良いじゃない?」

「そんな金、無いよ〜
 俺の小遣い知ってるだろ?」

「じゃ、止めれば?」

「そうはいかないから頼んでるんじゃないか。
 会社の付き合いなんだから
 行かない訳にはいかないんだって。
 俺の顔も立ててくれよ。
 な? 頼むよ」

「いくらよ?」

「そうだなぁ〜
 一万くらいあれば二次会とタクシー代くらいは・・・」

「バカじゃない!
 そんなに出せません!」

「じゃ、いくらなら出してくれるんだ?」

「五千円」

「えー? 足りないよ」

「あなた、前にへそくりがあるって言ってなかったっけ?」

「な、無いよ、もう」

「何に使ったのよ?」

「だから、そんなに大した額じゃないんだって」

「いくらあるの?」

「ん〜 まぁ・・・」

「いくら?」

「まぁ・・・ご、五千円くらいかな。
 だけどさ、急な付き合いだって
 いつあるか分からないし。
 それに、ほらっ!
 結婚記念日が近いだろ?
 そんな時に花束とかケーキくらい買える分くらいは
 いつもキープしておきたいしさ」

「ホントに五千円しかないの?」

「あぁ、もちろんだよ!
 俺の小遣いを考えたら分かるだろ?
 そんなに貯められないって」

「そうね。 じゃ、タバコを止めたら?」

「それは今は関係ないだろ?」

「分かったわ。
 それじゃ、はいこれ」

そう言うと
妻は財布から千円札を八枚取り出して
渋々、私に手渡した。

「えっ? もうちょっと・・・?」

「無理です!
 そんな余裕は我が家にはありません!
 足りなかったら
 自分で少し足しなさいよ」

「そんなぁ・・・頼むって」

「もう! じゃ、今回だけよ」

そう言うと
妻は千円札をもう二枚、私に差し出した。
そして、念を押すように訊いて来た。

「あなた、本当にへそくり五千円しかないの?」

「あぁ、もちろん本当さ!」

『へへ、本当は五万円あるけど
 こんな事の為には使えないからな』

私は心の中でそっとほくそ笑んだ。

「そう。 本当に五千円しか無いんだ?
 そしたら問題無しね?」

そう言うと妻はニヤリと笑った。

『な、なんだ? どう言う意味だ!?』

その瞬間、私の血の気が引いた。

『まっ、まさか!?』


「じゃ・・じゃ、寝るわ」

そう言うが早いか
私は一目散に二階の自分の部屋に駆け上がった。

そして、部屋に入ると
私はへそくりを隠していた本棚の前に立った。

嫌な胸騒ぎがする。

本棚の一番上の段
右から七冊目
文豪トルストイ著「イワンのバカ」

その本の間に通帳とカードを挟んでいたのだ。

急いで本を手に取ると
通帳を挟んでいたページを開いた。

『あった!』

ホッと、安堵をすると
私は何気なく通帳のページをめくった。

『な、な、なんだ〜?』

一カ月前に四万五千円が引き出されていた。

残金は五千円丁度。



『そう。 本当に五千円しか無いんだ?
 そしたら問題無しね?』

妻の悪魔のような囁きが
私の脳裏でエンドレスに流れていた。

『そう。 本当に五千円しか無いんだ?
 そしたら・・・』

『そう。 本当に五千円しか・・・』

『そう。 本当に・・・』

『そう・・・』







(注)既婚男性は決して
   奥さんと一緒には読まないで下さい。
   急な殺意が湧き起こったとしても
   当局は一切関知致しません。

   尚、これらの話はフィクションであり
   実在するいかなる個人
   及び、家庭とも関係がありません・・・多分。




































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