カレーサミット








そろそろ夕食の支度の時間です。

お母さんは冷蔵庫を開けると
ちょっと顎に指を当てて考えてから
パックのお肉を取り出しました。

それから食品庫を開けて
上の棚のカレールーを手に取ると
今度は下の野菜籠を物色して
じゃがいも、ニンジン、タマネギを取り出しました。

どうやら今夜のメニューはカレーライスのようです。



カレールー
「皆さん、今夜は我々の出番ですぞ!
 さて、そこで
 今日の議題は誰が今夜の主役になるかです。
 議長は私、カレールーにお任せあれ。
 さぁ、我こそはと思う者は発言をしてください」


「そりゃ、やはり僕でしょう。
 言っちゃ悪いけど
 ジャガイモが10個入っているより
 僕が5個入っている方が皆喜ぶじゃないですか」

ジャガイモ
「何をバカな!
 あなたね、私がいないカレーなんて
 間の抜けた二枚目俳優みたいなもんで
 締まりがないったらありゃしませんでしょ?」

タマネギ
「それを言ったら私でしょ?
 私の甘みはカレーの辛さをどれだけ引き立てるか」

ニンジン
「あはは、それって自分は引き立て役
 つまり、脇役って言ってるのと同じだよ。
 僕は脇役でも構わないけど
 僕がいるかどうかで見た目が変わるんだよね。
 僕のいないカレーなんか
 色彩りが悪いったらないですからね!」

ジャガイモ
「私は脇役なんて真っ平よ!
 茶色いルーの中で
 白い私がごろっと存在感を出しているのよ。
 ルーが茶色いのは私を引き立てる為。
 みたいな? うふっ♪」


「でも、子供から大人まで好きなのったら
 やはり僕でしょ?
 カレーの名前だって
 ビーフカレー、ポークカレー、チキンカレーってのが
 定番中の定番ですからね〜
 僕がいないカレーなんて貧乏臭くってさ」

ジャガイモ
「まぁ、失礼な!
 それを言うなら女性の一番人気は私でしょ!
 肉だけのカレーなんて野蛮人の極みですわ」

タマネギ
「そうそう!
 女性は野菜カレーが大好きですからね」


「いやいや、今の世は女子ほどガッツリお肉でしょ!
 肉食系女子なんて言葉も最早世間の常識ですよ。
 ビーフカレーにトンカツを乗せたカツカレー。
 ん〜 お肉が最高! ヒュー、ヒュー♪」

タマネギ
「それを言うならタマネギフライだって
 ヘルシーなのにボリューミーですわ♪」

ニンジン
「やっぱり、食欲をそそるのは色彩りでしょ!
 お肉君なんかルーに埋もれたら解らないですよ」


「それは聞き捨てならない言葉だな!」


<ケンケンガクガク>

<ワイワイガヤガヤ>

<スッタモンダ、ホイサッサ>

<アーダ、コーダ>


カレールー
「まぁ、まぁ。皆さん、落ち着いて!」


「落ち着け?
 これが落ち着いてなんかいられるかい?
 それぞれの名誉と存亡がかかっているんだから!」

カレールー
「いやいや、お気持ちは良く解ります。
 でもね、ここはひとつ皆さんが大人になってですね。
 何ていうかな、醜い言い争いは良くないです。
 我々は美味しく食べてもらってなんぼでしょ?
 少し大人になってですね、冷静に話し合いましょう」

ジャガイモ
「何? あなたは随分、余裕がありそうじゃない?
 しかも、上から目線ですか?」

カレールー
「いやぁ〜そんなつもりはないんですけどね。
 でも、なんせカレーは私がいないと
 煮物なんだかスープなんだか解らないでしょ?」

ニンジン
「君、驕る者は久しからずって知ってるかい?」

カレールー
「はい?」

ニンジン
「今時のカレーはルーカレーだけじゃないんだぜ。
 スープカレーもあれば
 ホワイトカレーってのもあるの知ってるかい?」

カレールー
「まさか!」

タマネギ
「私も聞いたことがあるわ。
 私はもちろん
 お肉君もニンジン君もじゃがいもさんも
 どんなカレーにも必ず入るし
 シチューにだってなれるのよ。
 でも、カレールーさんはルーカレーだけよね?」


「よし、じゃ議題を変更だ!
 誰を主役にじゃなくて
 そもそも今夜はどのカレーにするか決めよう!」

カレールー
「そ、そんなぁ〜
 ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」



その頃、台所では
お母さんが
キッチンに並べたお肉と野菜達を
何やら考え事をしながら眺めていました。

それからおもむろに言ったのです。

「ん〜 カレーにしようと思ったけど
 何だか面倒くさくなったわ。
 やっぱり今夜は焼き魚にしましょ♪」


一同
「え〜〜〜〜〜!? そ、そんなぁ〜(泣)」





まぁ〜 こんなことは良くあることですね。

国民の意見を広く聴くとか言いながら
或いは
有識者からいくら意見を聞いたとしても
トップの考えひとつで
物事は簡単に変わっちゃう・・・なんてことがね。































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