猫のお仕事







我が家の居間のストーブ前の特等席で
猫のダヤンとラックが何やらひそひそ話をしています。


ラック「なぁ、ダヤ兄。『猫のお仕事』ってなんだ?」

ダヤン「仕事?
    そりゃまぁ、美味しいご飯をいただいて
    後はノンビリ寝る事じゃないのか?
    人間ってさ。
    俺らが寝ているだけで
    『可愛い♪』なんて言うだろ?
    人間を癒してやっているんだから
    これは立派な猫の仕事だろ?」

ラック「だよね。やっぱ、それだよね」

ダヤン「まぁ、小さい時に父さんに聞いた話だと
    昔の猫は狩りをするのが仕事で
    『ネズミ』とか言うのを獲っていたらしいけどな」

ラック「ネズミ? ネズミって何だ?
    あの、いっつも窓の外で
    チョロチョロしてチュンチュンしてる奴か?
    あいつらを見てるとさ。
    何だか不思議なんだけど
    腰が自然に動いて
    無性に飛びかかりたくなるんだよね」

ダヤン「いや、アレは違うみたいだな。
    前にネーチャンさんが『トリ』だか『スズメ』とか
    確か、言ってたと思うけど」

ラック「違うのか。
    なぁ、ダヤ兄はそのネズミっての
    見た事あるのか?」

ダヤン「いや、無いなぁ〜」

ラック「あっ、分かった!
    アレじゃない?
    ほらっ、隣の家の前にいるじゃない?
    時々『ワンワン』とか言う奴。
    きっと、あいつだよ」

ダヤン「お前さ。あのデカイのを狩れると思うか?
    逆にこっちが狩られてしまうよ」

ラック「だよね〜 やっぱ、違うよね。
    良かった、あいつがネズミじゃなくて♪」

ダヤン「あはは。
    ん? 待てよ・・・
    もしかして?」

ラック「何? 何? どうしたの?
    何か分かった?」

ダヤン「いやな。ほらっ、たまにあの黒い四角いのに
    映っているだろ?
    何かさ。水みたいなのが流れていて
    そこを何かが長いのが動いているんだ。
    そしたら、何処からか黒いのがやってきて
    『バクン』って水を叩いてさ。
    何か、うにょうにょしてるのを咥えてるだろ?」

ラック「あー、それ見た事ある!
    ダヤ兄みたいな大きな奴がエサを獲ってる」

ダヤン「アレ違うのかな?」

ラック「確かに、あの黒い大きな奴って
    何処となくダヤ兄に体形が似てるよね?
    あいつも俺らの仲間なのかな?」

ダヤン「多分な。あいつは野良だと思うけど」

ラック「そっか。ネズミって水の中にいるんだ?
    それじゃ、俺らには狩れないよね。
    だって、この家にそんな大きな水は無いもの」

ダヤン「まぁな。でも・・・」

ラック「又? 今度は何?」

ダヤン「いや、何でも無い。
    きっと、あいつがネズミなんだよな」

ラック「そうだよ。間違い無いって!」

ダヤン「まぁ、それはともかく。
    何でいきなり猫の仕事がどうとか言ったんだ?」

ラック「いやね。ほらっ、パパさんがさ」

ダヤン「パパさん? それがどうした?」

ラック「何か、いつもさ。
    急に近づいて来たと思ったら
    いきなり俺を抱っこしてさ
    俺が嫌がってジタバタすると決まって言うんだ。
    『大人しくしなさい。
     抱っこされるのは猫のお仕事だろ?』ってさ」

ダヤン「あー、そういや俺もあるわ。
    俺は大人だからジタバタしないけどな」

ラック「でも、凄い怖い顔をして睨んでるよね?」

ダヤン「そりゃそうだろ。
    猫は抱っこされるのが嫌いなんだから」

ラック「アレって、本当に俺らの仕事なのかな?」

ダヤン「まぁ、一宿一飯の恩義があるからさ。
    あまりムゲにも出来ないだろ」

ラック「じゃ、パパさんが寄って来たら
    後はダヤ兄に任せて良い?
    俺は嫌なんだよね、抱っこされると窮屈でさ」

ダヤン「お前、それはないだろ?
    お前だって
    パパさんにいっつもご飯を貰ってるだろ?」

ラック「それとこれとは別だよ」

ダヤン「まぁ、確かにな」

ラック「どうしよう?」

ダヤン「どうしようったって・・・
    なるべくパパさんの近くに寄らないとか」

ラック「じゃ、もうこの暖かい所で寝れなくなるよ」

ダヤン「そっか・・・それは困るな」

ラック「でしょ? だから、ダヤ兄頼むよ」

ダヤン「俺だって抱っこは嫌いなんだぞ」

ラック「じゃ、じゃんけんで決める?」

ダヤン「俺らじゃ、一生『合いこ』になるべ?
    だって、俺らは『パー』しか出せないんだから」

ラック「ん〜 じゃ、クジでも引く?」

ダヤン「お前が作れよな」

ラック「出来る訳無いっしょ」

ダヤン「なら、言うなって」

ラック「ごめん、何となく言ってみたかったんだ。
    ネーチャンさん達が言ってるから」

ダヤン「おっ!?」

ラック「えっ? 何? どうかしたの?」



≪ミャッ≫

急に身体が宙に浮くと
思わず、ラックはネコ語で『キャッ』と叫んだ。


「おー、ラック。ただいま。元気にしてたか?
 どれどれ」

そう言うと
仕事から帰って来たパパさんはラックを抱き上げた。
ラックが急に宙に浮いたのはコレ。

いつもようにジタバタするラック。

「おいおい。大人しくしないとダメだよ」

パパさんはラックをなだめるように
ラックと目を合わせると猫撫で声で言った。


≪ミャア≫ ←ラック
 (早く離して)


「ラック。良いかい? 良く聞きなさい。
 これは君達のお仕事なんだぞ。
 仕事をするからご飯が食べられる。
 それは人間も同じだ。
 働かざる者、食うべからずだ」

「お父さん、ラックに無茶言わないでよ」

「いやいや。猫だって立派な家族だからな。
 同じように扱わないと。
 1日1抱っこ。それが猫のお仕事だ。
 ほら、ラック。もうすぐご飯を上げるからね〜♪」

「もう」

苦笑するネーチャンさん。


≪ミャア〜≫ ←ラック
 (ダヤ兄、助けて)


ダヤンはと言うと
パパさんが玄関を開ける音にいち早く気がついて
パパさんが部屋に入って来た時には
既にTVの裏に隠れていたのだった。

TVの影から覗きながらダヤンは呟いた。


≪ミャア、ミャー≫ ←ダヤン
 (ラック、すまん。耐えてくれ、ご飯の為だ)


≪ミャア〜≫ ←ラック
 (ダヤ兄の卑怯者〜〜〜!)


≪ミャ≫ ←ダヤン
 (許せ)


「あれ、ダヤンは?」


≪ミャッ?≫ ←ダヤン
 (ドキッ)


「さぁ、どっかで寝てるんじゃない?」

ダヤンに助け舟を出すネーチャンさん。

「全くもう。そのクセあいつは
 ご飯を用意すると何処からともなく現れるんだよな」

「猫だからね〜 猫出鬼没」

「何だそれ(笑)」

「さぁ、お父さんも仕事、仕事!
 もうラックも仕事したよ。
 お腹が空いたってさ」

「もう、仕方ないなぁ〜」


パパさんがラックを離すと
ラックはストンと軽やかに床に飛び降りた。


≪ミャ≫

そうひと鳴きすると
ラックは戻って来ると
パパさんの足にまとわりついてご飯の催促をした。

「分かったよ。今やるからな」


ラックの本日の任務無事に完了。

それにしてもダヤンは・・・


≪ミャア≫ ←ダヤン
 (お腹空いた)












































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