おもしろい話?









「ねぇ、何か面白い話はない?」

「あるよ」

いつもは『そんなのある訳ないしょ』と
にべも無い返事しかしない長女が
珍しく『ある』と言った。
しかも、DSをやっている最中にだ。

長女は没頭すると他人の話が聴こえなくなる。
ただし、勉強以外ではあるのだが。

まぁ、勉強には没頭した事がないと言った方が
むしろ正確かも知れないのだけど。

までも、それは良い。
”ながら”ではあるが、長女は返事をしたのだ。
しかも、面白い話があると。

「おっ! 何? 何かあるのか?」

「まぁね」

「良いねぇ〜 ねぇ、何さ?」

「教えて欲しい?」

「ウィ・マドゥモアズェ〜ル」

「何それ?」

「何、お前はフランス語も知らんのか?」

「フランス語は分からなくたって
 いくら何でもそのくらいは分かるけどさ。
 なんで、今それなの?」

「いや、嬉しくって、ついフランス語がね。
 こう見えても、お父さんは前世はフランス人だったからさ」

「あれっ? 前はスパゲティを食べながら
 『俺の前世はイタリア人だった』って言ってなかったっけ?」

「そりゃ、まぁ・・・あれだ。
 ほらっ、もう何度も生まれ変わってるベテランだからさ。
 フランスだって、イタリアだって、アフリカだってあるさ」

「何? アフリカのゴリラ?」

「オホ、オホッ・・・って、誰がゴリラやねん!」

「あれっ? チンパンジーだっけ?」

「誰がバンバンジーやねん!」

「言ってないけど?」

冷たい視線で長女が私を見た。

「何が?」

「バンバンジー」

「お前はアホか! ここでお父さんがやなぁ〜
 また『誰がチンパンジーやねん』って突っ込んだら
 ただの繰り返しになってまうやろ?
 話は展開せにゃ。 だろ?」

「・・・」

「ね、ねぇ、聴いてる?」

「あのさぁ〜 お父さん、いつから関西人になったのさ」

長女が面倒臭そうに訊いた。

「何が?」

「だから、『何とかやねん』とかさ」

「あぁ〜 だって、お前。
 お父さんは前世は関西人だったからな」

「あのさぁ〜 もう良いわ」

やれやれと言った体で長女はソファに横になると
また、DSを始めた。

「もしもし?」

「・・・」

「もしもぉ〜し? 何か忘れてやしませんかぁ?」

「何が?」

「いや、何じゃ無いべ?
 お前、面白い話があるって言ったじゃん?
 何?」

「言うの?」

「言うの」

「マジ?」

「マジ」

「・・・」

「あのなぁ〜 話を途中で止めるのはダメだぞ。
 言いかけた事は最後までちゃんと言わんと
 何だか気持ち悪いべさ」

「そうでもないよ」

「お前なぁ〜 お父さんが気持ち悪いの!」

「気持ち悪いの? じゃ、救急車でも呼ぶ?」

「誰がじゃ! ワレ、とっとと吐かんかい!
 故郷のおっ母さんが泣いているぞ!
 どうだ、かつ丼でも食うか?」

「刑事ドラマの見過ぎ! しかも、大昔の(笑)」

「ま、まぁ〜 それは良いさ。
 非難は甘んじて受けようじゃないか。
 お父さんだって、そこまで悪(ワル)じゃないさ。
 じゃ、大人しく教えてくれ」

「何を?」

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜〜〜〜
 面白い話・・・げっ!?」

「えっ? 何? どうしたの?」

長女が私を見て何やらニヤニヤ笑っている。
嫌な予感が・・・

「お、お前・・・まさかとは思うが・・・」

「何? 面白い話でしょ?
 お父さんの大好きな話をしてあげようか?」

「それって、まさか・・・じゃないよな?」

「何が? お父さん、もう何回も言ってるじゃん?
 よっぽど、好きなんだよね? あのネタ」

「何回もって・・・」

「でしょ? 私、もうすっかり覚えたよ。
 ってか、もう飽きたけどね。
 でもさ、そんなに聴きたいなら言ってあげよっか?」

「お前・・・それは無しだべ?
 それ、反則、反則!」

「なんで?」

「だって、お前・・・」

ひるんだ私に長女がたたみ掛ける。

「お父さんの好きな面白い話ったらアレしかないっしょ?
 ソフトバンクの”ホワイトお父さん”だよねぇ〜
 ホントはこれ自分で言いたかったんでしょ?
 何なら自分で言う?」

「い、いや・・・それは、その・・・つまり・・・」

長女が勝ち誇ったようにニヤッと笑うと
そして、私に向っておもむろにこう言った。

「”おもしろい”話はぁ〜
 頭も身体も白い犬は尾も白い(おもしろい)」




































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