「この草原の向こうには何があるんだろう?」

遥かに続く大平原は時に男の視界を妨げた

だがそれは

男に沸き立つ希望に勝るものではなかった

そうして男は幾つかの昼夜の後に

やがて雄々しく険しい山の麓に立った



「この山の向こうには何があるんだろう?」

山は行く手を拒むかのように立ちはだかった

だがそれは

男の好奇心を阻むほどのものではなかった

そうして男はついに山を越えて

やがて果てなく続く大地を眼下に見た




男の旅は続き
やがて大きな街に出た

道は人で溢れ夜も眠らない煌びやかな大都会




「この街ならきっと何かがあるはずだ!」

空を覆い尽くすかのようにそびえ立つ無数のビル群

だが結局それらは

男の満足感を満たすものではなかった

そうして続けた旅の果てに

やがて男はどこまでも広がる海を見つけた



「この海の向こうには何があるんだろう?」

水平線の煌めきは悪魔の誘いのようにも見えた

だがそれは

逆に男を奮い立たせるものでしかなかった

そうして海を渡った男がいた

潰えることのない夢だけを旅の道連れに





男が追い求めていたものは何だったのだろう?

そして

その先に見つけたものはいったい何だったのだろう?







今、私は
僅か数坪ほどの空間に身を預け
数多の男達に思いを馳せている

幸せについて考えたり
生き方について考えたりしながら


大きな夢に挑んで破れた人と
小さな夢さえ叶えようとはしない人

仮に結果は同じだとして
それでももし
違うものがあるとすればそれは何だろう?

充足感?

それともただの自己満足?


人生はどれだけ生きるのかではなく
どう生きるのかだ

そう言った人がいた


そうだとするなら・・・


そうだとするなら
何の為に生きるのかということと
それと同じくらい
誰の為に生きるのかということも
きっと大事なことなんだろう

それが例え
自分の為だとしても
愛する誰かの為だとしても
見も知らぬ他人の為だとしても
それは形の違いだけの話であって
言い換えれば
どう生きるのかということだ

それを他人が自己満足だと揶揄するならすれば良い


乱暴な言い方をすれば

確かに

誰かの為に生きようが
自分の為に生きようが
所詮は全てが自己満足に過ぎないのかもしれない

だが

その為に男は
顧みることも忘れて時に命を賭けることもある


それが「幸せなのか?」と訊かれたら
男はただ黙って微笑むだろう

幸せとは
他人には解らない自分に対する満足感なのだ

第三者から見たら取るに足りないような満足感でも

「それで十分だ」

男はそう言うに違いない

































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