親 知 ら ず







覚悟を決めて歯医者に行った

親知らずを抜く為である


思えば
歯を抜くなんて何年・・
いや、何十年振りだろう?


「不安」
と、私の顔にでも書いてあったのだろうか?

診察カードを窓口に出すと
受付の事務員さんが
私の心を見透かすように
しかも微笑みながら言った

「今はそんなに痛くは無いですから」


そうは言われてもね・・・



診療台に座ると歯科医が訊いた

「食事はしました?」

「朝ですか?」

「いえ、お昼です」

「えっ? 昼・・・ですか?
 いや、仕事が立て込んでいたもので未だです」

「そうですか・・・」

「あのぉ・・・もしかして
 昼を食べてから来た方が良かったですか?」

「そうですね。
 抜いた後では食べられないでしょうから」

「・・・・・」

あのなぁ〜
そう言う事は前回来た時に言ってくれよな!
(もちろん、心の中での言葉)

しかも
確かに「今は痛くない」って言ったよね?
抜いた後は食べられない?
やっぱり?

じゃ、一旦中止して
先に昼を食べて来ようかな?

って、おいおい!
もう抜く準備始めてるし・・・


「まず、痛み止めを飲んでおいて下さい。
 後で楽ですから」

えっ? やっぱ痛いんじゃん!
(もちろん、心の中での言葉)


親知らずを中心に
周りを3ヶ所くらい(多分)麻酔を打って
何やらやってると思ったら
いつの間にか抜歯は完了していたらしい

うん、確かに痛くは無かった


「じゃ、後は縫合しますね」

縫合? 縫うの?? 何処を???


しかし、もう遅い

麻酔が効いていて
唇が言葉を発しないのだ


麻酔が効いているとはいえ
糸が唇に当たる感触が微妙に心地悪い

「はい、終わりました。
 傷口が広かったので2針縫いましたから」



”親知らず”は
子供の歯と違い
ある程度大きくなって
親が知らないうちに生えてくる歯なので
”親知らず”と言うのだそうだ


ネットをしていたら
とあるホームページでこんな一文を見つけた


   <親しらずくん>
  親にも知られずひっそりと生まれ
  愛情を受けずに育ち、ひねくれものになり
  ときどき他のティース達を困らせる行動を取る


親の愛情は十分に受けたのに
さっぱり孝行もせずにここまで来てしまった私は
<親しらずくん>を読みながら
ひたすら反省をしたのでした

親知らずを抜いた痛みが
親の愛情を思い出させるなんて・・・


まぁでも
脇道ばかりを選んで歩いてきたような人生だったけど
その割に
それ程ひねくれもせずにここまで来れたのですから
少しくらいは多目にみてくれるかな?





























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