勝負師になれなかった理由(わけ)





学生の頃の話
(もちろん、携帯なんか無かった時代です)


仕送り数日前に
100円玉が1枚と10円玉が数枚しか無くなってしまいました
残りを暮らすにはお金は全然足りません

毎月仕送りをしてもらっている身なのに
良い振りをして友達付き合いをし過ぎてしまったのです

申し訳無いとは思いながらも
背に腹は変えられず
思案の末
恥を忍んで東京から北海道の実家に
無心の電話を掛ける事にしました


今でも覚えています
東小金井駅前の公衆電話です
時間は夜の9時過ぎでした

とりあえず
手持ちの10円玉を全部電話に入れて電話をしたのですが

「はい、**です・・・」

母が出た瞬間に電話が切れてしまいました


東京から北海道に電話を掛けるには
10円玉数枚では初めから勝負にはならなかったのです


私は残った100円玉を随分長い事見つめて考えていました

賭けです

『この最後の100円玉1枚で
 用件を伝えられるか?
 その前に切れるか?』

何せ、相手は心配性の母
こちらが言葉を発する前に矢継ぎ早に質問をされそうで・・・


長い間、迷った挙句
結局、100円玉1枚を握り締めてアパートに帰りました

『とりあえず
 100円あればインスタントラーメンは2個は買えるかな』


多分、電話が繋がれば
母は私の状況を察知して
いくらかでも仕送りをしてくれたでしょう
そんな気の付く母でしたから

でも、結局私は手元に100円玉を残す選択をしたのです



人生には
今有る全てを賭けてでも
勝負をしなければならない時があります

しかし
性格なんでしょうか・・・
それとも単に臆病なだけ?

勝負をしなければならない時に
勝負の出来なかった私は
夢にも目を瞑って
北海道に戻り
結局は普通のサラリーマンになりました



もし今なら
違った選択をするかも知れません
過ぎた時間よりも
これからの時間の方が遥かに短いのですから
後悔するにしても短い時間で済みます

その場面が来たら・・・






























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