悪あがきも必要だが時には諦めも肝心だと自分に言い聞かせる夜









夢乃家時間、深夜


いつもの指定席に座り
おもむろにノートパソコンの蓋を開く

電源を入れ
見慣れた「Windows」のロゴを眺めながら
今日一日をチラッと振り返る

すぐにパスワードを求めてくるパソコンに
「いい加減にパスワードくらい覚えろよ」
と、難癖をつけながら
渋々、お決まりのパスワードを入力する


デスクトップが立ちあがるまでの時間を利用して
席を立った私は台所に行きコーヒーを入れる


コーヒーを片手に再び指定席に座ると
パソコンは既にデスクトップを表示していて
私に次の作業を催促をしている


「さて・・・」


パソコンを開いてはみたものの
今夜書く事は何も決まっていない


「さて・・・」


こんな時用にと言う訳ではないが
デスクトップには
『まだよ』と言うフォルダーが作ってある

このフォルダーには
書きかけの文章ファイルが100近く入っている

まぁ〜

書きかけと言えば聞こえは良いが

正直に言えば
単に、未だにまとまっていない文章だとか

神様からもらった(?)フレーズが
一言だけ書いてあるだけとか

自分で書いた事も忘れている文章なんかが
ひしめき合っていて
完成されて世の中に出ていく日を夢見ながら
甲斐甲斐しくも大人しく出番を待っているのだ


「さて・・・」


上から順にファイルを開いてみる

「ん〜 何か違う」

次のファイルを開く

「これはどうだ?」

しかし、書きかけの次の言葉が出て来ない

「はい、次」


身に覚えの無いタイトルが目に止まった

「ん!? こんなの書いたっけ?
 どれどれ・・・?」

タイトルだけ読んでも
自分で言うのも何だが素敵な言葉だ

何か新鮮だ

期待感が自分の中で増していくのが分かる

ドキドキしてファイルを開く


が、すぐにファイルを閉じる事になる

タイトルは付けていたものの
ファイルの中には一言も書いていなかったのだ


「ふぅ・・・」


思いついた言葉を
忘れないように書いておくのは常なので
こんな事は良くある事だ

だから何ヶ月も経つと
自分で書いた事も忘れてしまう

でも、それが良いのだ

時間が経つと
何かの拍子にそれが化学反応でも起こすように
新しい言葉を生み出す事もあるのだから


ともあれ

そんなこんなを繰り返しながら
次々とファイルを開いて行く

が、しかし

「・・・・・」

何も浮かばない



「すったもんだ」

「てんやわんや」

「ジタバタ」



とりあえずあがいてみる

「な、何のこれしき!
 今までだってこうして
 どんな苦境も乗り越えてきたじゃないか!」

自分を叱咤激励してみる

「頑張れ、私!
 お前はやれば出来る子だ!」


と、その時

「おっ? これ! これ良いじゃん♪」

その中のひとつのタイトルに閃きが走った


そうなると後は早い

手掛かりを見つけた
灰色の脳細胞の持ち主≪名探偵ポアロ≫よろしく
言葉をかき分け、言葉を選りすぐりながら
事件の中枢・・・
いや、文章の本題へと鋭く切り込んでいく

・・・予定だったのだが

どう〜〜〜も今夜はそんな気分では無いらしい


『まだよ』フォルダーを静かに閉じる


「でもなぁ〜」


でも、今夜こそは何かひとつくらい書かなきゃな

でも・・・


「ん〜」

「んがっ」

「わしゃっ」

「うりゃ」

「てや〜」

「ドテッ」

(注)心の葛藤を表す擬態語のつもりだったが
   最後は・・・コケたのか?




悪あがきも必要だが時には諦めも肝心だ

潔く、ここはパソコンを閉じて寝てしまおう

「そうだ、それが良い。そうしよう」


まぁ、こんな夜もあるさ






































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