明 晰 夢
長い長い夢を見ていた
夢のわりには妙にリアルで
身体ばかりか心の痛みすら感じられた
でも
所詮は夢なんだ
何も気に病むことはない
いつ目覚めるとも知らない長い長い夢を見ていた
確かにそれは夢だと解っていた
なぜならそれは望んでいた人生ではなかったから
だからといって何を悲しむことがあるだろう?
挫折も後悔も
過去の自分も現在の自分も
夢の中では自分はただの傍観者であり
登場人物の中の一人に過ぎないのだ
長い長い夢を見ていた
夢だと解っていたから
どんな夢でも何も嘆かずに済んでいたのだ
例え
そこに希望がなくても
そこに愛がなくても
そこに安らぎがなくても
長い長い夢を見ていた
本当に長い長い夢だった
次第に身体は老いていったが
それが夢だと解っていたから少しも怖くはなかった
何故なら
どんなに身体が衰えていっても
心はいつも<現実>のままだったから
それが夢だという
それ以上、確かな証拠はないと解っていた
長い長い夢を見ていた
いつか身体は朽ち果ててしまったけど
相変わらず夢は夢のままだった
そのうち
心も自分を俯瞰することを止めてしまったが
それでも夢はまだ終わってはくれない
「それが夢というものだ」
例え
どんなに理不尽でも
どれほど不合理でも
夢に<現実>との整合性は求められないものだし
その不条理さこそが夢の夢たる所以なのだから
長い長い夢を見ていた
長い長い夢
愚かな人間はそれこそが人生だということに気が付かない