営業マンY氏、ついに人気者になる!?








私なんかは自慢じゃありませんが
これと言った特技もある訳じゃありませんし
見てくれも決してイケメンでもなくてですね


確かに
昔は若気の至りで?

女性にモテたい一心でギターを弾き始めて
仲間とバンドを組んだりもしてましたが

・・・その割でもなく


スポーツをやってもいつも程々

器用貧乏と言うんでしょうかね
ちょっとやれば大概はそれなりに恰好がつくので
それ以上の努力をしないで終わる・・・みたいな?

勉強なんざ・・・まぁ、それはともかく


確かに
10年に一度くらいは奇特な女性が何人か現れて
仮想「モテ期」症候群・・・的な?

それなりには、まぁ~

まぁね、所詮は10年に一度ですし


だから

自分では人気者だなんて思い上がった事は
50数年の人生の中じゃ一度だってありませんでした


ところがですね
ん~ 何故か・・・なんですが

ここ毎年か、健康診断が終わる度に
必ず会社の保険師さんから名指しで声がかかります

しかも、すごく私の事を気遣ってくれるんですよね

いやぁ~ 照れるなぁ~ えへへ♪


「Yさん、身体の調子はどうですか?」

「いやぁ~ 全然OKですよ。
 いつも、そんなに心配いただいてありがとうです♪」

「でも、あんまり良い数値じゃないですよ。
 今度、また病院に行ってくださいね」

「え~? またですか?」

「えぇ、またです(キッパリ!)
 美人の看護師さんからお呼び出しですよ♪(笑)」


美人の?
いや~ 人気者は辛いわぁ~♪

最後の「♪(笑)」が気にはなりますが


でも、仕事だってそんなにヒマじゃないんで
つい放ってしまうんです

だってね
相手がいくら美人の看護師さんだからってねぇ~

私が独身ならいざ知らず

ねぇ~?


でも、そうこうしていると
またまた会社の保険師さんからラブコールが来ます


「Yさん。病院、まだ行ってないですよね?」

「えぇ、まぁ・・・」

「ダメですよ。Yさんに何かあったら悲しむ人がいるでしょ?」


悲しむ人?

ん~ 誰だろう? もしかして保険師さん? むふ♪


「とにかく、近いうちに必ず行ってくださいね!」


北海道内だけでも何百人と社員がいるのに
この保険師さんってば
なんでいつも私の事を気にかけてくれるんでしょ?

な・ぜ・? むふっ♪


まぁ、そんなやり取りがいつも何度かあるんですが

これほどまでに保険師さんに心配されちゃねぇ~
それをシカと出来ちゃうほど
私だってヤボな男じゃありません

それで、まぁ~仕方なく病院に行くんですけどね


でもねぇ~

私を待っていたのは美人の看護師さんじゃなくて
何か、いつも苦虫をかみ潰したようなお医者さんで

もちろん、男のね


「あれ? 美人の看護師さんは?
 もう、照れちゃって隠れてるのかな?
 可愛いんだからぁ~ むふ♪」


「ところでYさん」

「あっ、はい。 何でしょう?」

「あなたね。自分の身体の事を少しは考えてますか?」

「はぁ、まぁ」

「『まぁ』じゃないでしょ?
 この数値を見てください。
 ガミガミ、クドクド etc・・・」


でもね
私はいつも先生に言うんです

「先生、私なんかはもう50過ぎなんですからね。
 営業マンを30年近くもやっていて
 精神的にも肉体的にも健康な人がいたら
 そりゃ、全々仕事をしてないって事じゃないですか?」

ってね

もちろん、先生には全く相手にもされませんが


「で、どうします? すぐに治療を始めますか?
 取りあえず今日は薬を出しておきますか?」

「えーっと・・・ それじゃ、薬と言う事で」

「じゃ、今回はコレコレの薬を出しておきますからね。
 それでちょっと様子をみてみましょう。
 でもまた、来月来てくださいよ」

「えー? 来月もですか?」

「そうです。
 来月来て頂いたら、また採血をしますからね」

「採血って・・・看護師さんが?」

「えぇ。それは看護師の使命ですから」

「えっ? マジですか? 看護師さんの指名ですか?」

「はぁ?」

「いや、だから看護師さんの指名って・・・」

「看護師は患者さんを指名なんかしません。
 もちろん、看護師の指名も出来ませんよ(苦笑)
 あなた、どんだけ人気者なんですか(半ば呆れて)」

「いやぁ~ 私ですね。
 何故か、保険師さんとか看護師さんから
 良く声をかけられるんですよね~ むふっ♪」

「ふぅ・・・(深い溜め息)」

「どうしてなんでしょうね?
 私ってば、母性本能をまさぐるタイプだとか?」

「まさぐるって、あぁ~たね(明らかに呆れたトーン)」

「あっ、誰がまさぐるですって?
 いやだなぁ~ 先生。くすぐるって言ったでしょ?」

「まぁ、何でも良いですけどね。
 ふぅ・・・(もはや、ほとんど相手にしていない)」

「で・・・先生? やっぱり来月も来なきゃいけません?」

「そりゃまぁ、あなたがどうなっても良いなら別ですけど」

「いや、それは困るんですけどね」

「でしょ? なら、大人しく言う事を聞いてくださいよ」

「先生、そんなに私に会いたいんですか?」

「誰がですか!
 私だって、どうせなら美人の患者さんの方が・・・
 いや、オ、オホン!」

「あらっ、先生だって男ですもんね?
 いやぁ~ その気持ち、分かるわぁ~」

「と、ともかくです!
 来月もお待ちしてますから」

「えー? やっぱり、先生はもしかして、そっちの趣味?」

「だっ、誰がですか!
 私だって、本当はねぇ~
 いや、とっ、ともかくです!
 来月、必ず来てくださいよ」

「なんだ。 やっぱり先生は私に会いたいんじゃ・・・」

「だぁ~かぁ~らぁ~ もう!
 いや、もう何でも良いです。
 とにかく、来月また来て下さいよ。
 君、Yさんがお帰りだ!」

医者は振り返ると看護師に言った

「それじゃ、Yさん。これを会計に出してください」

看護師さんがそう言いながら
私にカルテを手渡す時に、ふと手が触れると
看護師さんの頬が紅潮した・・・ように見えた

「お大事に。 また来月お待ちしていますね」

看護師さんはそう言うと
名残惜しそうに診察室のドアを開けた・・・ように見えた

「はい。 それじゃ、看護師さん。
 また、来月お会いしましょう!」


私は意気揚々と診察室を後にした

そっかぁ~
あの看護師さんも私を待ってるんだ♪ むふっ♪


会計に向う途中
健康診断の時に担当だった看護師さんにすれ違った

「あらっ、Yさんじゃないですか。
 今日は何ですか?
 あっ、分かった! 再診でしょ?
 ダメですよぉ~ 健康管理はちゃんとしてくださいね」

「いやぁ、あはは。
 でも、そんなに心配してくれてるんですか?」

「当たり前じゃないですか。
 お大事にしてくださいね。 それじゃ、またね♪」


それじゃまた?

ん~ そっか、あの看護師さんもね? むふふ♪


会計を待っているとやがて名前を呼ばれた

「Yさんですね? では今日は2800円になります。
 はい、ではこちらが領収証と診察項目の控えになります」

「あっ、はい。ありがとうございます。
 後、これ・・・駐車券、良いですか?」


駐車券にスタンプを押すと私に手渡して受付嬢は続けた

「次回は、えーっと・・・
 来月の18日ですね?
 10時の予約になっていますので
 10分前くらいまでに予約機で受付を済ませて
 診察室の前でお待ち下さいね。
 それではまた来月お待ちしています。
 お大事にどうぞ♪」

受付嬢はそう言うと
私に向ってニッコリ微笑むと軽く一礼をした

「はい。 それじゃまた♪」

私も受付嬢に飛びっきりの笑顔で微笑みを返した


いやぁ~
我が社の保険師さんと言い
ここの看護師さん達と言い
まぁ、あの医者はともかくだけど
俺にはその気は無いからさ
でもさぁ~ まさか受付嬢までとはね

みんなしてこんなに気遣ってくれて
しかも、みんな私を「待ってるわぁ~」だなんてさ

ん~ なんか、感激しちゃうな。 むふっ♪

でも、誰と言われてもなぁ~
もう、選びきれないわ♪

どうしましょ? むふ♪ むふっ♪


病院を出た私は
看護師さん達の笑顔を思い返すと自然に笑みで溢れた

「いやぁ~ 人気者は辛いわぁ~♪ ルンルン♪」







<死神のボヤキ>

いやぁ~ 歳の頃と言い、あのメタボ具合と言い
良いカモを見つけたと思ったんだけどな

でも、あんな能天気なパープリンを地獄に連れ帰ったら
地獄の秩序が乱れて
俺はエンマ様に大目玉をくらうところだったぞ

危ない、危ない!

あの手のアホは殺しても死なないタイプだし
死んだら死んだで
「あれがどうだ」とか「これをどうしろ!」とか
手がつけられないくらいクレームをつけて騒ぐに決まってる

触らぬ神に祟り無しってね

まぁ、死神の俺が言う台詞じゃないけどさ

よし、気を取り直して
それじゃまた、次のカモでも探すとするか

えーっと、次の再検査リストは・・・と

どれどれ?











































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