蝦夷梅雨








青い空を折りたたんだ六月の季節が
灰色のカーテンを空一面に敷きつめている。

そんな空を見て君は”嘘つき”と口を尖らせた。

そう、確かに北海道には梅雨はない。

だけど今年の北海道は
今日でもう二週間も毎日雨が降ったり止んだり
まるで梅雨のような空模様が続いている。

テレビのニュースでは気象予報士が声を揃えて
<蝦夷梅雨>だなんて言っているけど
それは正しくはないんだろう。


「ただ、たまたま雨降りが続いているだけだよ」

そう言う僕を横目で見ながら
君は”気楽な人ね”と笑った。

「だって積み重ねた歴史がないからね。
 これが五年後も十年後も続くようなら
 その時は<蝦夷梅雨>だって認めるよ」

「そんな先のことは確かめようがないよ。
 だいいち、十年後になんて
 こんな話をしたことさえ忘れているわ」

「それで良いじゃないか。
 その時に、もし一緒にいたら
 きっとこんな話をするはずさ。
 『今年も蝦夷梅雨の季節がきたね』ってね」


僕は確かに楽天家のお気楽人間だけど
決して君に嘘はつかないからさ。

だから、十年後はどうなっているのか
一緒に確かめてみないか?


「あっ、見て! 虹よ!」

大はしゃぎで君は窓辺に駆け寄った。

おいおい、僕の話を聞いていたのかい?


まぁ、良いか。
それも積み重ねていけば良い。

僕達の歴史はまだ始まったばかり。
これからの方がむしろ色んなことがあるんだろう。
もし、悲しいことがあったら
そんなものは心のどこかに折りたたんで
この空の本当の青だけ探し続けるんだ。

その時にもし又、虹を見つけられたら
きっと二人は笑顔になれる。

そうやって歴史を積み重ねていって
十年後の君と逢うのが今から楽しみだよ。


「何か言った?」

振り返って君は訊いた。

「いや、別に」

僕は笑いながら答えた。

「そう、ならいいや」

君はまた空を見上げると
鼻歌交じりに虹を眺めている。


「あっ! ねぇ、日が射してきたよ!」

「ホント? おぉー!」

僕も窓辺に駆け寄って君と並んで空を見上げた。
今までは雲の勢いに押しやられていた太陽が
今度は雲を追いやろうと真っ青な空を押し拡げている。

「やっと梅雨明けかなぁー」

「えっ? やっぱり梅雨だったの?」

「何でもいいよ。やっと晴れたんだから」

「そうだね」


そう、今はそれで良いんだ。
雨の空も曇りの空も
そしてもちろん
晴れた空も君と一緒に見ていられるならね。











































inserted by FC2 system