七夕ストーリー  第2話



星 合 の 飾 り






  “ 例え1年に1度だけでも会えるなら幸せ
   織姫と彦星には
   今年も来年も10年後(あと)も有る
   けれど私達には渡る天の川さえ今は無いの・・・
 
   せめてもう一度
   あの人に会わせてください 
 
     叶わない願いなら
   この身を奪って!
   心だけの私になって
   あなたを探しに行くわ・・・“







七夕で賑わう商店街
行き交う人の笑顔の群れが由美には辛い
 
「どうしてみんなは、そんなに笑えるんだろう・・・」
 
まだ、ホンの半年前の出来事
あの日以来、由美から笑顔が消えた
何もかもが虚しくて、何もかもが哀しい
 
「私も一緒に死んでいたら どんなに楽だっただろう」
 

由美の誕生日の夜
2人でお祝いをした後の由美を送る帰り道
はみ出して来た対向車との事故で武は死んだ
あっけないくらいの最後
 
即死だった・・・
 
 
思い出すと今でも涙が溢れてくる
どれだけ涙を流したか・・・
それでも涙は枯れる事は無い
 
由美は街の喧騒から逃げ出すように足を早めた
 
1人でいる寂しさ

でも
それより人波の中にいる孤独感の方が
今の由美には辛かった
 
 
 
商店街を抜けて外れに来た時
ぼんやりと薄灯りの中に
1本の七夕飾りが立っていた 

誰にも気づかれないように
あまりにひっそりと立っていたその飾りは
何か場違いな感じすらした
 
良く見てみると
飾りの下に小さな看板が有った
 
《星合の飾り》
 
「星合の飾り・・・?」
 

下げてある短冊はどれも普通の短冊では無かった
 
ハンカチだったり
おみくじを枝に結ぶように
便箋を枝に結んでいるのも有った 

どれも
良く読めないくらい文字が滲んでいるような気がした
多分、昨夕の雨にでも濡れたのだろうか
 
由美は不思議な気分でそれを見ていた
 
飾って有った短冊・・・
いや、短冊の代わりに結んであるのは
どれもおかしなものばかりだったが
今の由美には何故か違和感は感じられなかった
 

むしろ
下げた人の想いが伝わってくるような気がして
胸が締め付けられるようだった
 
「星合の飾り・・・何処かで・・・?
 そうだ、思い出した!
 確か・・・七夕の夜に

亡くなった人に所縁のある物に想いを書いて枝に飾ると

その想いは星を渡って亡くなった人に届く・・・」
 
 
 
「あのネクタイ・・・?」
 
ふと、上の方に目をやると
1本のネクタイがやはり枝に結んで有った
 
「これって…まさか!」
 
由美は慌てて、そのネクタイを枝から外すと
そこに書いてある文字に釘付けになった
 

“もう一度だけ、もう一度だけで良いから由美に会いたい”
 
「武の字だ!」
 
そのネクタイは
去年の武の誕生日に贈ったものだった
見間違えるはずもない
 
「間違いない!  でも、どうして?」
 
 
その瞬間、由美は全てを思い出した
 
「私だ・・・ 武じゃない!  死んだのは私・・・」
 
 
 
通夜の夜
棺の前で人目をはばからず泣き続けていた武を
由美は少し高い所から見ていた
 
「違うわ!  武、私はここにいるのよ!」
 
それから何度も武の傍で叫んだ
必死になって・・・
 
でも武には由美の声は届かなかった
 
それが辛くて
いつしか
由美は自分の記憶を心の奥深くに封じ込めたのだった
あの事故の記憶を・・・
 
 
 
由美はハンドバッグからハンカチを取り出すと
口紅で武への想いを1文字1文字丁寧に書き綴った


そしてネクタイとハンカチを外れないように
シッカリと結ぶと愛おしむように抱き締めた
 
「武・・・愛してるわ。 例え、会えなくても心はいつも一緒よ」
 
そして、ハンカチを結わえたネクタイを元の枝に結んだ
 
 
その瞬間・・・
由美は自分の身体がフッと軽くなるのを感じた
 
目の前に会った星合の飾りが
段々と目の下になっていった

それが見えなくなるくらい小さくなった時
ふと1軒のアパートの部屋の灯りが見えた
 
「武・・・」
 
思う間もなく、それは更に小さくなっていった

やがて
空の星が眩しいくらいに感じるようになった時
何処からともなく声が聴こえた
 
『どの星が良い?』
 

「星・・・? もし、星になれるなら、
武の部屋が一番良く見える星が良いわ・・・」
 
 
 
部屋には
2人で仲良く肩を抱き合った写真が今も壁に貼ってある
 
武はアパートの部屋で
今夜も由美にメールを送っていた

寂しい時、由美を思い出した時
武はいつも返事の来るはずのないメールを送っていた
 
返事は来ない
 
でも、携帯に残された由美のアドレスだけが
由美と繋がっていた唯一の証しのように思えた
 
 
その時、武の携帯の着信ランプが光った
 
「由美? まさか・・・」
 
武は慌てて携帯を開いたがメールが入っているはずもなかった
 
 
ふと、武は窓の外を見た
 
都会の夜には珍しく
ひと際輝いている星が見えた
 
「そっか、あの星の輝きが携帯の画面に映ったんだ・・・」

 
武は窓を開けると、その星を見上げた
それは、なんだかとても懐かしい暖かな輝きに思えた

 


































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