七夕ストーリー 第3話

星飼い






その昔
 
八百万(やおよろず)の神々が
それぞれ八百万の銀河を治めていました
 
 
その中でも
ひと際大きな銀河を治めていた天帝ゼウスには
たいそうワガママな姫がいました
 
 
名前を”オリヒメ”と言いました
 
オリヒメは堅苦しい女神としての仕事は大っ嫌い
でも
楽しい事は大好き
それより大好きなのは男の神達に
チヤホヤされる事でした
 
 
「イケメン大好き♪ 人生、思いっきり楽しまなくっちゃ♪」
 
いつもそんな調子で
父である天帝ゼウスから命じられた機織りもそっちのけで
男の神達に囲まれてはパーティ三昧の毎日でした
 
 
 
「あー、何処かに
  私をドキドキさせてくれるような
 いい男はいないのかしら。
 ここの男達はもう飽きちゃった」
 
 
 
その日
お城から見える天の川は
眩しいほどに
いつもよりキラキラ輝いていました
 
 
「あらっ、どうしたのかしら?」
 
 
見ると
天の川の向こうに人がいます
 
 
「あれは誰? 私のイケメンレーダーにビビっときてるわ♪」
 
オリヒメは官女を呼ぶと尋ねました
 
「ねぇ、ねぇ、あの男は誰なの?
 あなた、知ってる?」
 
官女は答えました
 
「あー、あの者はヒコボシと申す星飼いです」
 
「星飼い? ならお父様の部下って訳ね?」
 
「いえいえ、部下ではありません。
 ただの星飼いです。
 おそらく天帝様のお顔など見た事もないでしょう。
 星飼いで天帝様に謁見を許されているのは
 星飼い長の星神様だけでございますから」
 
「でも、ちょっといい男じゃない?」
 
「姫様、また悪い御病気でございますぞ。
 あの者は身分の低いただの星飼いでございます」
 
「ふぅ〜ん、星飼いかぁ・・・」
 
オリヒメはそう呟くと
意味有り気にニヤリとほくそ笑みました
 
「姫様、お止めくださいよ。
 何かあったら怒られるのは私なんですから」
 
「大丈夫よ」
 
「姫様の”大丈夫”は一番危ないんです!」
 
官女が言うのも耳に入らず
オリヒメは
川岸の向こうで働くヒコボシをジッと見ていました
 
 
 
「ねぇ?」
 
「な、なんでございましょう?」
 
官女はドギマギしながら答えました
 
オリヒメの気紛れとワガママには
いつも振り回されるのです
官女の内心も穏やかではありません
 
『よりによって、あの者に目を付けるとは・・・』
 
 
 
 
星飼いの仕事は新しく生まれた星達を育てる事です
 
やがて一人前の星に育つと
天帝ゼウスは星に生命を与えます
つまり陸と海が十分に生命を育む環境になったら
そこに人間や動植物を作りだすのです
 
星神は
その星の人間や動植物の管理をするのが仕事でした
 
 
 
 
「ねぇ?」
 
「・・・」
 
「ねぇ? 聞いてるの?」
 
「は、はい・・・なんでございましょう?」
 
「あの男・・・
 どうしてもただの星飼いには見えないんだけど」
 
「姫様、なっ、何をおっしゃいます。
 あの者はただの星飼いです」
 
「いや、違うわ!
 あの物憂げな表情
 でも、時折り見せる何か強い意志を持った目
 絶対、何か訳有りよ」
 
「姫様、そんな事はありません。
 さ、もうお部屋にお戻りくださいな」
 
「ねぇ? 何をそう慌てているの?」
 
「いや、なっ、何も慌ててなどおりません」
 
「いや、何かあるわね?
 こう言う時の私の勘が当たるのを
 あなたは良く知ってるわよね?
 あの男、何者なの?」
 
「いや、ですから・・・ただの・・」
 
「おだまり!
 私にその手は通用しません。
 あなたが教えてくれないなら
 私にも考えがあります!」
 
「姫様、勘弁してくださいませ。
 何もお教え出来る事はありません」
 
「そう、ならいいわ。
 今までありがとう」
 
「姫様! それは・・・
 わ、分かりました。
 お話します。
 でも、この事は天帝様には・・・」
 
「分かってるわよ」
 
オリヒメはそう言うと
ニコッと悪戯っぽい笑みを浮かべました
 
そして、官女に言いました
 
「あなたにはいつも感謝してるのよ」
 
 
 
 
 
官女がオリヒメに語った話はこうです
 
 
 
星飼いのヒコボシ
その古(いにしえ)の名は「ノア」と言う星神でした
 
 
その昔
タイヨウ系と呼ばれる惑星群の3番目に当たる場所に
チキュウとメイオーセイは2連星として置かれました
 
まず、天帝ゼウスはメイオーセイに生命を与えました
そして
ノアはそのメイオーセイの管理を任されていました
 
その後、メイオーセイはノアの管理の元で
目覚ましい発展をとげていいきました
 
 
天帝ゼウスは
次にチキュウに生命を与えました
 
初めのうちはメイオーセイ人も
チキュウを2連星の仲間として
文明が育つのを応援していたのです
 
その様子を見ていたゼウスは大変満足し
ノアの管理能力を高く評価していたので
次に又、新たな惑星を作ると
そこもまたノアに任せる事にしたのです
 
 
ノアがその星に手を尽くしていた数千年の間に
チキュウは
メイオーセイを追い越すほどの文明を持つようになりました
 
そしてやがて
メイオーセイとチキュウの間で戦争が始まったのです
 
 
天帝ゼウスは嘆き怒り
この2つの星を滅ぼす事に決めました
 
 
まず
メイオーセイに住む人間や動植物
生きとし生けるあらゆるものを
洪水や天変地異を起こして滅ぼしました
 
それから
メイオーセイをチキュウから引き離すと
タイヨウ系惑星群の一番外側に追いやりました
 
そこはもうタイヨウの熱さえも届かない
文字通り、死の空間です
例え、何かの加減で生き伸びた生命が有ったとしても
その場所ではもう生きてはいけなかったでしょう
 
 
その話を仲間の星神から伝え聞いたノアは
急いでチキュウに戻ると
天帝ゼウスの目を盗んで
チキュウ上の人間夫婦1組と
1ツガイづつの動植物を選んで”舟”に乗せると
チキュウの外に隠したのです
 
 
そうとは知らない天帝ゼウスは
チキュウ上に残った人や動植物を
やはり
洪水や天変地異を起こして残らず滅ぼしました
 
そして、自らへの戒めとして
チキュウの連星として
メイオーセイの代わりに人間の住めない月を置いたのです
 
しかし
メイオーセイと月では質量が違います
 
天帝ゼウスはきちんと置いたはずでしたが
月は僅かにズレてそこに置かれました
 
なので
月は自転も出来ずに
いつも同じ面をチキュウに向けているのです
 
 
 
ある時
天帝ゼウスは
ノアが隠した人間や動植物の存在を知りました
 
ゼウスは激怒をし
ノアを星神から星飼いに身分を落とした後で
ノアの記憶を消したのです
 
 
しかし
2つの星を有無を言わさず滅ぼした自責の念もありました
 
天帝ゼウスは”舟”の人間や動植物を許し
チキュウに戻したのです
 
 
星飼いに身を落としたノアを憐れに思い
いつしか星神仲間達は
ノアを
”悲子星(ヒコボシ)”
と呼ぶようになったのです
 
 
 
 
「ふぅ〜ん」
 
「またまた、姫様!
 妙な事を言い出さないでくださいましよ」
 
 
オリヒメはそれには何も答えずに
ジッと
ヒコボシが星飼い作業をしているのを見続けていました
 
 
「でも、悪いのはヒコボシじゃなくて
 何でも彼に任せて星の管理を疎かにしたお父様よね?」
 
「なっ、何を、めっそうもない。
 この銀河では天帝様は絶対なのですぞ!」
 
「でも、だからってやって良い事と悪い事があるわ」
 
「あっ、姫様! 何処へいらっしゃいます?」
 
「ちょっと彼の所に行ってくるわ」
 
「あー! ダメです! 姫様!」
 
 
 
言うより早く
オリヒメは階下に降りると
お城を抜け出し
やがて天の川の岸辺に着きました
 
 
天の川の向こう側では
ヒコボシがずっと星飼い作業を続けています
 
 
「どうしよう?」
 
 
ふと見ると
少し川下に上弦の月がかかっていました
 
 
「あれだわ!」
 
 
オリヒメは上弦の月の所まで行くと
月の舟人に
向こう岸まで連れて行ってくれるように頼みました
 
しかし、月の舟人の返事はツレないものでした
 
 
「あのね、私が誰だか分かって言ってる訳?」
 
 
月の舟人は涼しげに答えました
 
「もちろんでさ。 姫様でしょ?
 でも、ダメなもんはダメなんです。
 天帝様の命令以外は
 聞いてはいけない事になってるんです。
 もちろん、それが姫様でもです」
 
 
「分かったわよ! ケチ!」
 
 
オリヒメはそう悪態をつくと
元来た道を戻って行きました
 
 
「困ったわ。 お父様に頼む訳にはいかないし・・・」
 
 
向こう岸のヒコボシを眺めながら
途方に暮れていると
何処からともなく
何百と言うカササギの群れが飛んできて
羽を次々と繋げて”橋”を作ってくれたのです
 
 
「まぁ! あなた達! ありがとう!」
 
 
オリヒメはスキップをしながら
”橋”を渡って行きました
 
 
 
やがて向こう岸に着くと
最後の1歩はピョンと飛び降り
 
「あなた達、ありがとう!」
 
そう、カササギ達にお礼を言いました
 
 
カササギの群れはまた空へと羽ばたいて行きました
 
 
 
オリヒメは急いでヒコボシの近くまで行くと
 
「ねぇ、ヒコボシさん♪」
 
と、声をかけました
 
 
作業の手を止めると
ヒコボシは訝しげにオリヒメを見やりました
 
 
「はい、何でしょう?」
 
「あなた、ヒコボシさんでしょ?」
 
「はい、そうですが・・・あなたは?」
 
「私? 誰でもいいじゃない」
 
 
オリヒメは得意の悪戯っ子スマイルで答えました
 
今までは大概
このオリヒメの悪戯っ子スマイルで
落ちない男神はいませんでした
 
でも、ヒコボシは興味無さそうに言いました
 
 
「仕事がありますので、失礼します」
 
そう言うと
ヒコボシは星を追って歩き出しました
 
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 
 
甚くプライドを傷付けられたオリヒメは
ヒコボシを追いかけ
ヒコボシの前に回り込むと
有無を言わさずヒコボシにキスをしました
 
「なっ、何を・・・」
 
ヒコボシが言うのも聞かず
オリヒメはもう一度ヒコボシの唇を塞ぎました
 
 
 
男と女の運命と言うのは不思議なものです
 
最初は軽い冗談のつもりで
ヒコボシに興味を持ったオリヒメでしたが
今ではヒコボシにすっかり夢中になっていました
 
ヒコボシの方も
最初は戸惑ってはいたものの
オリヒメの天真爛漫さにやがて強く惹かれていったのです
 
 
そして
1週間、1カ月、3か月・・・
 
やがて1年が経とうとしていました
 
 
 
「ねぇ? ヒコボシ?」
 
「なんだい?」
 
「幸せ?」
 
「あぁ、もちろんだよ!
 キミが来てくれてからというもの
 ボクは毎日が楽しくてしょうがないんだ」
 
「うふ、ワ・タ・シ・も・よ♪」
 
 
いつしか
ヒコボシは星飼いの仕事もそっちのけになっていました
 
 
星達は痩せて
とても生命を育てるような環境にはなっていません
 
それでもヒコボシはオリヒメとの時間に溺れていました
 
 
 
 
「どれ、去年の星達はもう十分に育っている頃だな」
 
天帝ゼウスは
星の牧場を見て回りました
 
そして、満足そうに頷きました
 
「よしよし、星飼い達はみんな上手くやっているようじゃ
 後は・・・ノアの所か?
 まぁ、奴なら上手くやってるじゃろ」
 
 
天帝ゼウスは最後にノアの牧場にやって来ました
 
 
「なっ、なんと! これはどうした事じゃ!?」
 
 
天帝ゼウスは我が目を疑いました
 
そこに飼われていた星達は
みんな痩せこけていて
苔だらけの星ばかりでした
 
 
「ノア! ノアは何処だ?」
 
 
天帝ゼウスはノアの家まで走って行くと
ドアを思いっきり叩きました
 
ドンドン!  ドンドン!
 
 
「ノアはいないのか!」
 
 
 
ノアとオリヒメは今朝も仕事もせずに
ノンビリとまだベッドの中でした
 
 
すると突然、家のドアを叩く音がしました
そして、聞き覚えのある声が”誰か”を呼んでいます
 
 
「お父様!?」
 
オリヒメは飛び起きました
 
「ねぇ、ヒコボシ、起きて!
 大変よ! お父様が来たの!」
 
「お父様?」
 
ヒコボシは眠い目を開けると訊き返しました
 
「お父様って?」
 
 
ドンドン!! ドンドン!!!
 
天帝ゼウスが今にもドアを破りそうな勢いで叩いています
 
 
「はいはい、今開けますから・・・」
 
「ダメよ!」
 
「どうして? お父さんなら開けないとマズイよ」
 
「ダメ! 絶対ダメ! あなた殺されちゃうわ!」
 
「あはは、大丈夫だよ。
 丁度良い。
 一度挨拶をしないといけないって思ってたんだ」
 
ベッドから降りかけたヒコボシを
オリヒメは必死に引き止めました
 
「ダメ! 絶対ダメ!」
 
 
ダーン!!!
 
激しい音がしたと思ったら
力任せに叩いたドアが開きました
 
そして
そこに仁王立ちの天帝ゼウスが
鬼の形相で表れました
 
 
「えっ? ゼ、ゼウス・・・様・・・?」
 
 
「ノア! 貴様、何と言う事だ!
 仕事も放ったらかしにして何をしておる!」
 
「いや、その・・・」
 
「ええい、言い訳はいらん!
 お前はもう・・・」
 
そう言いかけた時
ベッドにもう1人いるのに気が付きました
 
 
「ん? そこにいるのは誰だ?」
 
 
オリヒメは毛布を被ったままでした
 
 
天帝ゼウスは目のやり場に困ったように
少し優しい声で言いました
 
 
「そう言う事なら咎めはせんが
 だが、仕事を蔑(ないがしろ)にしてもらっては困る。
 これ、そこの! 出て来なさい」
 
 
呼ばれたからって
オリヒメもそう簡単には出られる訳もありません
 
 
「これ、そこの娘! 出て来んか!」
 
 
「おい、マズイよ。
 もう覚悟を決めて出ておいで」
 
ヒコボシはオリヒメが
天帝ゼウスの娘だと言う事は知りませんでした
 
 
「ダメ、出たら殺されるわ」
 
「大丈夫だよ。 ゼウス様はそんな方じゃないから」
 
「ダメよ、ダメ!」
 
 
「これ、何をしておる?」
 
「はっ、はい、ただいま」
 
ヒコボシはそう言うと
オリヒメにベッドを出るように促しました
 
 
諦めたように
ようやくオリヒメは毛布をどけると
顔をソッとあげました
 
 
「なっ、何故お前が!」
 
天帝ゼウスは呆然としていました
 
そして
我にかえると物凄い形相でヒコボシを睨みつけました
 
「ノア! お前は自分が何をしているのか分かっているのか!」
 
「止めて、お父様! 私が悪いの!」
 
「ええい、うるさい!」
 
言うが早いか
天帝ゼウスはオリヒメを脇に押しやると
ヒコボシに殴りかかりました
 
「止めて、お父様!」
 
 
ヒコボシは何が何だか分からないまま
天帝ゼウスに殴られていました
もちろん、天帝ゼウスには何があろうと
逆らえるはずもありません
 
 
「ノア! お前は処刑じゃ!
 誰か! 誰か衛兵はいないか?」
 
「待って、お父様!
 ヒコボシは悪くないわ!
 私達本当に愛し合っているのよ!」
 
「ええい、黙れ!」
 
すがるオリヒメを天帝ゼウスは押しのけて言いました
 
「ノア! お前に情けをかけて星飼いにしたのが間違いだった
 あの時、お前を処分しておけば・・・」
 
 
ヒコボシもようやく
オリヒメが天帝ゼウスの娘である事に気が付きました
 
 
「オリヒメ・・・」
 
「ヒコボシ、ごめんなさい
 でも、あなたを愛しているのは本当なのよ!」
 
「オリヒメ、私もだ!
 しかし、お前がゼウス様の娘だったとは・・・」
 
「ごめんなさい。
 でも、隠すつもりはなかったの。 本当よ!」
 
「ああ、分かっている。
 しかし、もう私の事は忘れてくれ。
 私はゼウス様に処刑をされる身だ」
 
「いえ、そんな事は絶対させない!
 私の命に代えてもあなたを守ってみせるわ!」
 
「オリヒメ・・・」
 
「ヒコボシ、ああ、ヒコボシ!
 あなたを愛しているの!」
 
 
オリヒメは天帝ゼウスの方に向き直ると言いました
 
「お父様! ヒコボシと結婚をさせてください!
 私はヒコボシがいなくなったら生きてはいけないわ!
 お父様! お願い!」
 
「ええい、黙れ! お前はもう城に帰るのじゃ!
 二度と川を渡る事は許さん!」
 
「お父様!」
 
「黙れ! オリヒメ、こっちに来なさい!」
 
「いいえ、私は行きません!
 お父様が許してくれるまではお城には帰りません!」
 
「何をバカな事を言っておるのだ!
 おい! 誰か! 誰かおらんか?」
 
 
ヒコボシは意を決したように
天帝ゼウスの足元に膝まずくと
頭を下げ
天帝ゼウスに生まれて初めて自分の気持ちをぶつけました
 
「ゼウス様! 申し訳ありませんでした。
 私はゼウス様に受けた恩を仇で返したのかも知れません。
 しかし、私はオリヒメを愛しています。
 例え、この身が処刑されようとも
 オリヒメに対する私の愛は決して消える事はありません。
 ゼウス様、私の事はどう処刑されようと構いません。
 しかし、しかし!
 オリヒメだけはどうぞ許してやってください!」
 
「いいえ、ヒコボシ!
 あなたが処刑されるのなら私も死にます!
 あなたがいないのなら
 私が生きている意味も無くなってしまうわ!」
 
 
 
「ゼウス様! お呼びでございましょうか?」
 
そこへ衛兵がやって来ました
 
「この者が何か?」
 
「いや、もう良い。 下がっておれ」
 
「はっ、はい。」
 
 
衛兵が家の外に出るのを見届けると
天帝ゼウスは2人に向かって言いました
 
「お前たちの言い分は分かった。
 だが、しかし!
 それでお前たちを許す訳にはいかん」
 
「お父様! でも・・・」
 
「黙れ!」
 
 
天帝ゼウスはしばらく目を宙に向け考えていました
そして、口を開くと
 
「ノア、お前は星飼いの身だ。
 それがどう言う事かは分かるな?」
 
ヒコボシは愁傷に答えました
 
「はい、存じております・・・」
 
「では、お前とオリヒメは結ばれると思うか?」
 
「いえ、思いません。
 オリヒメがもし、ゼウス様の姫様だと分かっていたら
 私は姫様の顔を見る事も思いつかなかったでしょう。
 しかし、私はオリヒメを愛してしまいました。
 1人の女性として、オリヒメを愛してしまいました。
 それはオリヒメが何者であろうと
 変わるモノではございません。
 例え、結ばれないにしても
 私は一生オリヒメだけを愛し続けるでしょう・・・」
 
「お父様! 私も同じです!
 例え、ヒコボシと結ばれないとしても
 私の心はいつまでもヒコボシだけを愛し続けます!」
 
 
天帝ゼウスは黙ったまま目を閉じ
何事か考えていました
 
 
重苦しい沈黙の時間が流れました
 
 
やがて目を開けると
天帝ゼウスは2人を見て口を開きました
 
 
「うむ、お前達。
 その気持ちに偽りはないか?」
 
「ありません」
 
「私もありません」
 
 
「そうか、お前たちの気持ちは良く分かった。
 しかし、お前たちはそもそも結ばれない星の元におるのだ。
 それでも気持ちが変わらないというのなら
 それを私に見せてくれ。
 1年に1度・・・
 そう今宵一夜限りだけはお前達がここで会う事を許そう。
 1年に1度だけじゃ。
 それまではノアは星飼いとして今まで以上に精進をするのじゃ。
 オリヒメ、お前は城で機を織り続けるのじゃ。
 それが出来るなら
 1年に1度、7月7日の今宵だけは会うのを許そう」
 
「ゼウス様! ありがとうございます!」
 
「お父様!」
 
 
「1000年・・・」
 
「はい?」
 
「1000年じゃ。
 1000年経ってもお前達の愛が変わっていなければ
 その時は・・・
 ノア、お前を星神に戻すから
 その時は・・・好きにしろ」
 
「ゼウス様!」
 
 
元々
天帝ゼウスはノアとオリヒメを結婚させるつもりでした
 
あの”事件”さえ無ければ・・・
 
 
「ノア、励めよ。
 オリヒメ、行くぞ」
 
そう言うと
天帝ゼウスはオリヒメを連れてノアの家を出ました
 
 
 
「全知全能の神と言われたこのわしが
 結局は宿命には逆らえなかったと言う事か・・・」
 
「何? お父様?」
 
オリヒメは訝しげに父ゼウスを見上げました
 
「いや、何でも無い・・・」
 
天帝ゼウスは
そう言いながらも何処か嬉しそうに見えました
 
 
 
 
 
 
 
   作者注:本作品はフィクションです
       従って、登場人物や地名等も全て架空の存在です
       又、いかなる
       神話・伝承・伝記等にも基づくものではありません







































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