いろんなことがあるから人生っておもしろい









いろんなことがあるもんだな。
呆れるくらい、笑えるくらいにさ。

今朝、届いた招待状。
まさかお前とあいつとはね。


まだ二十歳の学生だった頃。
俺達はいつも尖っていた。

いったい何に尖っていたのだろう?

社会への怒りというほど
社会のことなんて解ってはいなかった。

親への反抗?
波風も立てぬように穏やかに生きている親達。
そんな風にはなりたくないと思いながら
親の援助で大学に通っていた俺達。
自己矛盾に対する幼稚な抵抗だったのだろうか?

根拠のない自信だけは余るほど持っていた。
同時にそれと同じくらい
将来への不安は確かにあった。

いつまでも学生ではいられないことくらい
先輩達を見ながら身につまされていたっけ。


大学一年のゼミで初めてあったお前とあいつ。
俺達は短い時間ですっかり意気投合していた。

それからはゼミはもちろん、授業を取るのも
学食でAランチを食べるのもいつも三人一緒だった。

時には学生街の居酒屋で終電の時間も忘れるくらい
時間を忘れ語り合い、笑い合っていた。

終電に間に合わなかった夜は
よく大騒ぎをしながら三十分歩いて
俺のアパートに来ては又、飲みそして三人で雑魚寝をした。


いつも酔うと
俺のことなど目に入ってないかのように
二人で激論が始まり
そうなると酔いにまかせたお前とあいつは
お互いに決して意見を譲らなかった。

それでもケンカになることもなく
むしろお前とあいつは
そうなることを楽しんでいたようだった。

俺はというと
どっちかと言えば聞き役専門みたいなもので
ただ二人の顔を見ながらニコニコしているだけだった。

「俺は邪魔かな?」

気を利かせたつもりで或る日
飲みに行く誘いを断ったことがあった。

そんな時は二人の意見はいつも一緒で
遠慮している俺を強引に飲みに連れ出してくれた。

「お前がいないとつまんないんだよ。
 話も盛り上がらないしさ」

「そうよ。ユウ君がいるから
 私達は安心して激論を闘わせられるんだわ。
 私達二人だけだったら
 とっくに殺傷事件になってたかも(笑)」

「あー、それはあるな。
 お前がいる安心感ね? うん、その通り!」

そうは言ってくれたけど
どれだけ激論を交わしてもケンカにならなかったというのは
それだけお互いのことを解っていて
お互いのことを信頼していたからだと思う。
つまり、それだけ相性が良いということだ。


そんな三人の関係は卒業まで続いた。

俺は卒業したらてっきり二人は結婚をするものだと思っていた。


だが、お前は卒業をすると故郷に帰って
親父さんの仕事を手伝うことになった。

あいつはあの街でOLになった。

俺も卒業と同時に故郷に帰って
ごく普通のサラリーマンになった。


お前とのやり取りも年賀状と暑中見舞いくらいになった。
あれは卒業をして七〜八年くらい経った頃だったろうか。

お前の結婚式の招待状をもらった。

卒業以来の再会は
当たり前だがそうゆっくり出来るものでもなく
新婦が席を離れた隙にお前の耳元で訊いた。

「てっきり、あいつと結婚をするものだと思ってたんだけどな」

「俺もさ。だが、縁が無かったということだ。
 でも、言っておくけど俺は今、すごく幸せなんだぜ」

「あぁ、さっきからのニヤけたお前の顔を見てれば解るよ」

「ユウ、ありがとうな。遠い所を駆け付けてくれて」

「なぁに。お前の結婚式と葬式だけは
 俺が絶対出なきゃと思ってるんだ」

「おいおい。縁起でもない!
 今日は結婚式だぞ(笑)」

「その代わり、お前も俺の時は出てくれよな」

「あぁ、葬式だろ?(笑)」

「おい、そっちだけか?(笑)」

「そういやさ」

「うん?」

「山田って覚えてるか? ゼミの」

「うん」

「去年だったかな。出張先でバッタリ会ってな。
 あいつの話を聞いたんだ。
 何でも、何処ぞの偉いさんの息子と結婚をして
 今では子供も二人いて幸せに暮らしているらしい。
 良かったよな」

「そっか。うん、それは良かったよ」

「後はお前だけだぞ」

「あはは、せいぜいご祝儀を貯め込んでおいてくれよな」

「おう、任せておけ!
 でも、俺は小遣い制だからなぁ〜」

「あはは、早くも尻の下かい?(笑)」


「あら、何か楽しそうね」

そこに新婦が笑顔で戻って来た。
ウェディング姿の新婦は和装の時よりいっそう華やかで
お前の鼻の下が伸びていたのを俺は見逃さなかったよ。


そんなお前の離婚を知ったのは五年後の年賀状だった。


結婚式の招待状に書いてあった添え書きは
昔とちっとも変らないぶっきらぼうな殴り書きだった。

『離婚してもう二十年が過ぎて
 一人息子もようやくこの春から社会人になった。
 この歳になって恥ずかしいが結婚をすることにした。
 ついてはお前に友人代表をして欲しい。
 頼んだぞ!』

そして添えてあったお前とあいつの名前。

おいおい、それだけか?
あいつとはどうやって再会したんだよ?

肝心なことが何一つ書いてないじゃないか!

まぁ、お前らしいっちゃらしいのかな?

良いさ。
この前の結婚式は新婦に遠慮をして
早々に失礼をした訳だけれど
今回の<新婦>なら何一つ遠慮はしなくて良いよな?

とことん話を聞かせてもらうぞ!
覚悟をしておけよ!
それが友人代表としての責任ってもんだろ?


人生はどんなことが起こるか解らない。
いろんなことがごく当たり前のように起こる。
自分だけは別だなんて
それは若い頃の根拠のない自信と同じで
何の役にも立たない思い込みなんだ。

でも、だからこそ
人生っていくつになっても面白いんだろう。











































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