かなちゃんとまゆちゃん






 かなちゃんは小学2年生、妹のまゆちゃんは幼稚園の年中さんです。
 まゆちゃんはお姉ちゃんの事が大好きでした。
 いつも、かなちゃんのやる事を真似したり、何かと言うと後をくっついて歩いたりしていました。

 かなちゃんがテレビを観ている時は、まゆちゃんも隣に並んで座ります。
 かなちゃんが本を読んでいると、
 「見せて〜 見せて〜」
 と、ほっぺたがくっつくくらい寄っていきます。
 「もう! まゆがいたらゆっくり本も読めないじゃない、あっち行って!」
 かなちゃんはいつもくっついて来るまゆちゃんがうっとおしくってたまりません。
 「もう、あっち行ってよ!」
 そうかなちゃんに言われると、まゆちゃんはすぐに泣いてしまいます。
 「ねぇ、見せてよ〜 一緒に見ようよ〜」
 「イヤだよ! あっち行ってて!」
 すると、台所からお母さんが飛んできて
 「かなちゃん、まゆと仲良くしないとダメじゃない。」
 と、かなちゃんを叱ります。
 「だって、まゆが邪魔するんだもん。」
 かなちゃんはふくれっ面でそう言うと、まゆちゃんに背中を見せて本を読み出しました。
 「お姉ちゃんのバカ!」
 そう言って、まゆちゃんはかなちゃんの頭を叩きました。
 「何すんのよ? バカ!」
 そう言って、かなちゃんもやり返します。
 「こらっ、止めなさい! 2人共仲良く出来ないならもうおやつは上げませんよ。」
 お母さんがそう言うと、2人は渋々仲直りをしました。


 2人はいつもこんな調子です。
 さきまで仲良く遊んでいたと思ったら、すぐにケンカが始まります。
 まゆちゃんはお姉ちゃんと同じ事がしたいだけなのです。
 でも、かなちゃんにはそんなまゆたんがうっとおしくってたまりません。
 それに、まゆちゃんはすぐに泣いてしまいます。
 そうすると、いつもお母さんが飛んできて、叱られるのはいつもかなちゃんなのです。
 かなちゃんはそれも面白くなかったのです。


 テレビゲームをしている時もそうでした。
 まゆちゃんも始めはおとなしく隣に座って、かなちゃんがゲームをするのを観て
 応援をしているのですが、でも10分もしないうちに又、まゆちゃんの「やらせて」攻撃が始まります。
 「ねぇ、お姉ちゃん。まゆにも少しやらせて〜 ねぇ〜 ねぇってば〜」
 「ダ〜メ! まゆにはまだ無理なの!」
 「そんな事ないもん。 出来るもん! ねぇ〜 やらせてよ〜」
 「ダメだってば! 無理なの!」
 「ねぇ〜」
 「ダ〜メ!」
 まゆちゃんは又、泣きながらかなちゃんの服を引っ張りました、
 「ねぇ〜 やらせて〜 やらせてよ〜」
 「離してよ、もう!」
 すると又、お母さんが台所から飛んできました。
 「かな、いい加減にしなさい! 仲良くしなさいって言ってるでしょ?」
 「だって、まゆなんかにはまだ無理だもん。」
 「無理じゃないもん。」
 まゆちゃんも泣きながらそう言い返します。
 「ねぇ、かなちゃん。少しだけまゆにもやらせてあげなさいよ。そしたらまゆも気が済むんだから。」
 「イヤだよ。絶対出来ないもん。」
 「出来るもん。」
 「うるさい、あっち行け!」
 と、かなちゃんは怒りだしました。
 すると、お母さんが
 「かな、いい加減にしなさい! 何ですか、その言葉は? 仲良く出来ないならゲームは禁止です!」
 そう言うと、お母さんはかなちゃんの頭をゲンコツでグリグリしました。
 「あっ、ひど〜い! 悪いのはまゆなのに! まゆったら服を引っ張ったんだよ〜」


 いつもそんな感じでした。
 『私は悪くないのに。お母さんはいつもまゆの味方ばっかり。まゆなんかいなくなれ!』
 かなちゃんは心の中でいつもそう思っていました。


 ある土曜日の事でした。
 かなちゃんが友達に誘われて近所の公園に遊びに行こうとしたら、
 また、まゆちゃんが
 「ねぇ、何処に行くの? お姉ちゃん、私も連れて行ってよ〜」
 「イヤだよ。まゆが一緒だと友達と遊べないもん。」
 「ねぇ〜 連れて行ってよ〜 一緒に行こうよ〜」
 「イ〜ヤ!」
 かなちゃんはまゆちゃんに「べー」をしました。
 すると、それを見ていたお母さんは又言います。
 「かなちゃん、たまにはまゆも連れて行ってあげたら? 一緒に遊べば良いじゃない?」
 「イヤだよ。だって今日は友達と一緒なんだもん。」
 そう言うと、かなちゃんは1人で遊びに行ってしまいました。


 「しょうがないわね〜 そしたら、まゆちゃんはビデオでも観る?」
 「ねぇ〜 お母さんも公園に行こうよ〜」
 と、今度はお母さんにおねだりです。
 「ダメなのよ。今日は洗濯に掃除ってやる事がいっぱいなの。ごめんね。」
 渋々、1人でビデオを観始めたまゆちゃんでした。


 「ただいま〜」
 かなちゃんが帰ってきました。
 「お母さん、おやつ有る?」
 そう言いながら、かなちゃんが居間に入ってくると、まゆちゃんは1人でお絵かきをしていました。
 「おー、おとなしくしてたんだね? えらい、えらい。 何を描いてるのかな?」
 かなちゃんがそう言いながら、まゆちゃんの描いている絵を見ると
 なんと、まゆちゃんはかなちゃんの国語のノートにクレヨンで絵を描いていました。
 「あー! 何してんのよ! バカ!!」
 かなちゃんはノートを取り上げると、まゆたんの頭を叩きました。
 「だって、ここに有ったんだもん。 まゆ悪くないもん。 お姉ちゃん、ずっとここに置いてあったもん。」
 そう言うと、今度はまゆちゃんがかなちゃんを叩き返しました。
 「何すんのよ? バカ!」
 かなちゃんが押すとまゆちゃんはひっくり返って泣き出しました。
 「お姉ちゃんのバカ!」

 「またなの? もう、どうしたのよ?」
 又、お母さんは飛んでくるとかなちゃんに訊きました。
 「見てよ、お母さん。 まゆったら国語のノートにイタズラ描いていたんだよ!」
 「だって、ここに有ったんだもん。」
 まゆちゃんも言い返します。
 「そんな所に置いておく方が悪いんでしょ? 大事な物ならちゃんとしまっておきなさい。
  だいたい、かなちゃんはいつも出しっぱなしなんだから。 だらしないわよ。
  もう2年生なんだから、ちゃんとお片付けくらいしなさい。
  それより、宿題は終わったの? もう、いつも遊んでばかりなんだから。」
 『なんでそんな話になるわけ? 悪いのはまゆなのに!』
 かなちゃんは面白くありません。 
 いつもそうなのです。
 『お母さんはまゆの味方ばっかり!』
 そう思うと、かなちゃんはますます腹が立ってきました。
 「お前なんか、あっちへ行け!」
 「またなの? まったくもう。どうしてあなた達は仲良く出来ないの?」
 「だって、悪いのはまゆだよ! なんで私ばっかり叱られなきゃならないの?」
 お母さんが来ると、まゆちゃんも負けてはいません。
 「お姉ちゃんのバカ!」
 そう言うと、まゆちゃんはお母さんの後ろに隠れて「べー」をしました。
 それを見たかなちゃんはとうとう堪忍袋の緒が切れました。
 「まゆのバカ! お前なんか死んでしまえ! お前なんか生まれなきゃ良かったんだ!」
 それを聞いたお母さんはかなちゃんを叩きました。
 「かな! なんて事を言うの? いい加減にしなさい!」
 かなちゃんは目に涙を一杯ためて
 「お母さんはまゆの味方ばかり! お母さんは私の事なんか嫌いなんだ!」
 そう叫ぶと、かなちゃんは2階の自分の部屋に駆け上がって行きました。


 『お母さんのバカ! まゆのバカ! まゆなんか生まれなきゃ良かったのに!』
 かなちゃんは思い出していました。
 まゆちゃんが生まれる前はお父さんもお母さんもいっつもかなちゃんと一緒でした。
 おやつも本もテレビもビデオも、何でもかなちゃんの自由だったのです。
 でも、まゆちゃんが生まれてからは、お父さんもお母さんもまゆちゃんばっかり可愛がるように
 なったと思っていたのです。
 『かなは1人っ子の方が良かったな・・・』
 かなちゃんはベッドに潜り込むと泣きながら神様にお願いをしました。
 『神様、お願いです。あんなまゆなんていりません。 私を1人っ子に戻して下さい。』
 何度も何度もお願いをしました。
 そして、いつしか泣きながら眠ってしまいました。


 どのくらい経ってでしょう。
 目が覚めると、下でお父さんの声が聞こえました。
 「あっ、お父さん帰ってるんだ!」
 かなちゃんは飛び起きると、下の居間まで走って降りて行きました。


 「お父さん、帰ってたの? ねぇ、ねぇ、聞いてよ。 昨日学校でね・・・」
 1週間振りで出張から帰って来たお父さんにかなちゃんは夢中で話かけました。
 テストで100点を取った事。跳び箱が5段跳べるようになった事。
 逆上がりが出来るようになった事。生活の時間にみんなで川原に石を拾いに行った事・・・
 次から次と話続けました。
 「はいはい、かな。分かったから、そろそろ解放しておくれ。」
 お父さんはそう言いながら笑いました。
 「えー、つまんない。まだたくさん話したい事があるのに。」
 かなちゃんはちょっとふくれて言いました。
 そして、お父さんの膝の上に座りました。
 「あはは、かなは相変わらず甘えん坊だなぁ〜」
 「良いんだもん。ここは私の指定席だったんだから・・・
 そう言い掛けて、かなちゃんはふと何かを思い出しました。
 『指定席だった・・・前は? 赤ちゃんの時? ・・・まゆが生まれるまで? まゆ?』
 かなちゃんは当たりを見回しました。
 家の中がいつもより静かなのです。
 『そうだ、まゆ? まゆは?』


 お母さんは庭で洗濯物を干していました。
 お母さんに駆け寄ると
 「ねぇ、お母さん。まゆは何処?」
 お母さんはキョトンとしています。
 「まゆって?」
 「まゆだよ! お母さん! 何処にいるの?」
 お母さんは答えました。
 「何言ってるのよ? まゆなんて家にはいないでしょ?」

 かなちゃんは慌ててお父さんのところに戻りました。
 「ねぇ、お父さん。まゆは?」
 お父さんも返事に困っていました。
 「まゆってお人形さんかい? 確か・・・奥の部屋じゃないのかい? なんだ、又失くしたのかい?」
 かなちゃんは必死に言いました。
 「違うよ! まゆだよ! 妹のまゆ! お父さんもいつも仲良くしなさいって言っていたでしょ?」

 かなちゃんは食堂の壁にまゆちゃんと2人で写っている写真が貼ってあるのを思い出しました。
 「ほらっ、お父さん! これ! まゆと写っている・・・」
 写真を見たかなちゃんは言葉を失くしました。
 そこにはかなちゃん1人しか写っていなかったのです。
 「変な子だなぁ〜 夢でも見たのかい?」
 そう言うと、お父さんは優しくかなちゃんの頭を撫でました。


 『大変だ! ホントにまゆはいなくなっちゃったんだ! どうしよう・・・私が神様にお願いをしたからだ。』
 かなちゃんはどうして良いか分からずに大声を上げて泣き出してしまいました。
 それを見ていたお父さんは
 「おいおい、いったいどうしたんだい?」
 かなちゃんは泣きながら答えました。
 「だって・・・だって・・・まゆが・・まゆがいななっちゃった・・・ 私が神様にお願いしたからだ・・・」
 お父さんとお母さんは顔を見合わせながら不思議そうな顔をしています。
 「いったいどうしたの? かなちゃんったら、さっきからおかしな事ばっかり言って。」
 お母さんは優しくかなちゃんを抱きしめてそう言いました。


 『そうだ! そう一度神様にお願いしなきゃ!』
 かなちゃんは急いで2階に自分の部屋に上がるとベッドの上に座って神様にお願いをしました。
 『神様、お願いです! まゆを返してください! もうわがままは言いません。
  まゆとケンカもしません。 仲良くします! だから、だから・・お願いです!
  神様、もう2度とまゆが生まれてこなきゃ良かったなんて言いません!
  お願いです! 神様! まゆを、まゆを返して下さい!!!』
 かなちゃんは泣きながら何度も何度も神様にお願いをしました。
 一生懸命お願いをしました。
 何度も、何度も・・・
 かなちゃんはいつしか泣きながら眠ってしまいました。


 かなちゃんが目を覚ますと、下から微かに笑い声が聞こえました。
 「そうだ、まゆ!」
 かなちゃんは飛び起きると、急いで階段を駆け下りました。


 居間に下りていくと、まゆちゃんがお父さんと一緒にテレビゲームをしていました。
 「まゆ!」
 かなちゃんは思わず大声を上げました。
 まゆちゃんはビックリすると、また怒られたのかと思って
 「あっ、お姉ちゃん・・・ごめんね。ゲーム勝手にやってて。
  でも、お父さんが良いって言ったんだよ。」
 「良いだろ? 2人で仲良くやりなさい。」
 お父さんはそう笑いかけました。
 かなちゃんは声が出せませんでした。
 『まゆが戻ってる! ありがとうございます! 神様!!』
 かなちゃんは心の中で何度もお礼を繰り返しました。
 「どうしたの? お姉ちゃん・・・」
 かなちゃんは我に返りました。
 「ううn、何でもないよ。 まゆ、一緒にゲームしよう! そうだ、後で公園に遊びに行く?」
 かなちゃんはまゆちゃんを抱きしめると泣きながらそう言いました。
 「どうしたの? お姉ちゃん、変だよ。」
 まゆちゃんは訳が分からずポカンとしています。
 お父さんとお母さんもキョトンとしています。
 そして、みんなで顔を見合わせると声を上げて大笑いをしました。
 『良かったぁ〜 ホントに良かった!』
 かなちゃんは心からそう思いました。


 かなちゃんだって、ホントはまゆちゃんの事が大好きだったのです。
 ただ、少しだけ寂しかっただけなのです。


 それからどうしたかって?
 もちろん、2人は以前より仲良く・・・って、言いたいところなんですが・・・
 さっきまで仲良くしてたと思ったら、もうケンカが始まっています。
 まぁ〜 又、30分もしないうちに2人共ケロッとして仲良く遊んでいるんでしょうけどね。
 そんなもんなんですよね、姉妹って。




 





















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