金魚すくいでコイをすくう方法






東京の大学に通っていた私が
夏休みに帰省をしたのをきっかけに
地元に残っていた弘樹がみんなに声をかけてくれて
久しぶりに仲間が集まった


「丁度、神社でお祭りをやってるんだ
 みんなで行かないか?」

そんな弘樹の提案で
夏祭りの縁日に仲間で出かけた


男子が4人、女子が3人

みんなクラスは違ったけど
高校3年生の時
共に文化祭の実行委員をやった仲間だった


あの頃の母校は何かと規則が厳しくて
何をするにもアレもダメ、これもダメと言う中

「自分達の為の文化祭をやるんだ」

と、時に学校と交渉をし
時に学校に対して抗議行動をしたりと
過去に例の無いくらい異例づくしの中で
我々の文化祭は強行された


当然、後になって学校側からは睨まれた訳だが
私達にとっては
自分達の望む文化祭を
自分達の力で成し遂げたと言う達成感の方が大きかったし

何より
その中で築き上げた7人の絆は
私達それぞれにおいても
何にも勝る財産になったと思う

そしてそれは
高校を卒業して3年経った今も変わってはいなかった


大学生になった者
未だに浪人を続けている者
社会人になった者
専門学生等
それぞれに進路は違っていたけど
7人が顔を合わせれば
そんな事はどうでも良い事だった


女子の3人
その中には当時の私の意中の人もいた

でも
みんな仲が良過ぎて
誰かを好きだなんてとても言い出せなかったし
それを言わないのが暗黙の了解みたいに思ってた



他愛の無い話だけど
いつも話を盛り上げるのが上手い奴がいて
そいつはもちろん女子の一番人気だった

私はと言えば
そいつにいつも妙な突っ込みを入れられては
下手なボケ役に回ってばかりだった

いわゆる、引き立て役ってやつだろうか
でも、そんなポジションが楽だったし
そいつも憎めない奴だったので
それはそれで良かったのだ



夜店を冷やかして回ったり
みんなでりんご飴を舐めながら
夜店の端から端を何度も行ったり来たりしてた



金魚すくいの店の前を3度目に通りかかった時
弘樹が言った

「よし、金魚すくいやるべ。
 実は俺、得意なんだ」


あれこれ大騒ぎをしながら
みんなで金魚すくいを始めた


「なんだよ〜 全然じゃん」

「ちょっと待てよ。
 俺は大物狙いなんだ」

「見て、私1匹すくったわよ。
 私って天才かも〜♪」

「よし、俺だって負けないぞ!」

「ねぇ、あの可愛い金魚捕って」

「どれだ? よし、任せとけ」

「大丈夫かよ?
 良いかっこすると恥かくぞ」

「うるせい! みてろよ〜」


そんな風にみんなが盛り上がっていた時
誰かが私のTシャツの袖を引っ張った


恵美だった


恵美は3人の女子の中では
一番目立たない存在だった

いつも(私の意中の人だった)由香里の傍で
ニコニコ微笑んでいた



「ねぇ? ユージクンはやらないの?」

「俺? 俺、不器用だから昔からすくえた事がなくってさ」

「でも、今度はすくえるかもしれないよ」


恵美にそう言われると
不思議とすくえる気がしてきた

誰かに褒められたり
おだてられたりすると
すぐにその気になってしまうと言う
私の調子の良い性格は
相変わらず健在だったようだ


100円を払って店のオジサンにモナカをもらい
水槽の脇にしゃがむと狙う金魚を探した


「おっ、いよいよユージの登場か?」

誰かが声をかける

「ユージ君、頑張って♪」

「おー、良いとこ見せろよ」


みんなが口々に冷やかし半分に応援をする


「みんな、注目〜
 これからユージが一番大きな金魚をすくいます!」

「よせよ、緊張するから」


その時だった

「ユージ君、しっかりね♪」

そう声をかけてくれたのは由香里だった

思わず、心臓がドキドキした
チラッと見た由香里は夜店の裸電球に照らされて
いつもよりキレイに見えた

『ヤバイなぁ〜 余計に緊張しちゃうよ』

そんな心の声が聴こえたのだろうか?

「大丈夫、大丈夫♪ ゆっくり狙ってね」

そう言って、落ち着かせてくれたのは恵美だった


ちょうど、少し大きめの金魚が
水面に上がってきた

『よし、これだ!』

思いきって金魚の下腹にめがけてモナカを入れた

その瞬間
驚いた金魚が水面を跳ねると
あっけなくモナカは破れてしまった

「あ〜ぁ、最初から無理するからだよ」

「誰だよ、大物がどうとか言ってた奴は」

照れ隠しに苦笑する私

「やっぱり俺に救われる金魚はいないかな」

「そんな事はないよ」

そう言うと恵美は

「おじさん、モナカもう1個ちょうだい」

と、店のオジサンに100円を渡した

「はいよ」

オジサンは恵美にモナカを渡した

「ほれ、うちで一番丈夫なモナカだよ」

「えー、同じに見えるんだけど」

「バレタか」

と、オジサン


それには一同、大笑い


「はい、ユージ君」

恵美は私にそのモナカを手渡した

「一番丈夫なんだって」

「えー? だって、今オジサンが」

「大丈夫、私が念力をかけといたから。
 絶対、バッチリだよ♪」

「お前、いつから念力が使えるようになったんだよ」

「”ずっと前から”だよ。
 私を信じなさい。
 ほら、その気になってきたでしょ?」

恵美にしては珍しく
少しおどけたように
そして悪戯っぽく笑いながら言った

「そう言えば、何となくそんな気が・・・」

「でしょ?」


「おー、なんか、良い感じじゃん!」

良い雰囲気の時に限って誰かが必ず邪魔をするってのは
まぁ、良くある話だ


「ねぇ、あの金魚をすくって」

恵美が言う

「どれ?」

「アレアレ! あの薄い橙色の可愛い金魚が良い」

「良し、任せとけ」

その気になった私に不可能は無い?


恵美が指差した金魚に狙いを定めて
そっとモナカを構えた

『良し、今だ!』

そう思った瞬間、恵美が

「頑張って♪」

思わず、振り上げたモナカに力が入り過ぎた私



人生初の金魚ゲット

ならず・・・


まぁ、人生なんて
そんなに上手く行く事の方が少ないものだ



「はいよ、お姉ちゃん、これ持って行きな」

店のオジサンが
さっき恵美の指示していた金魚を一匹袋に入れると
恵美に差し出した


「恵美の念力は金魚じゃなくて
 オジサンにかかったんだな」

誰かがそう言うと
みんなで大爆笑になった

照れくさそうにはにかむ恵美


そんな恵美がとても可愛く思えた



それから1カ月後
私と恵美は仲間公認で付き合う事になった


金魚すくいが縁になった訳だ


金魚はすくえなかったけど
大切な”コイ”をすくえたって事



或る時、恵美に訊いた

「ねぇ、いつから俺の事を好きでいてくれたの?」

「言ったでしょ? ”ずっと前から”って」





































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