メ ロ デ ィ






食事の支度をしながら
キミはいつも歌っていたね

適当に即興で歌っていたのか
歌う度に歌詞が違ってたけど
メロディはいつも同じだった

「それ、何の歌?」

そう訊くボクに
キミは笑うだけで答えてくれなかったね

掃除機をかけながら
洗濯物を丁寧にたたみながら
車の助手席で
窓の外を流れる景色を見ながら
いつもキミは同じメロディを口ずさんでいた

何処かで聴いた事があるような無いような
でも
不思議と懐かしい気持ちになったよ

何だか
ボクまで優しくなれるような
そんな温かな懐かしさを感じていたんだ

いつの間にかボクも
そのメロディを
知らない内に口ずさむようになっていた



もう10年になるだろうか

あれからボクは
鼻歌も歌わない人と結婚をして
先月3歳になったばかりの娘もいる


「ねぇ、パパ?
 その歌、何て言う歌なの?」

娘にそう訊かれて気がついた

ボクは未だにあのメロディを口ずさんでいる

「あぁ、これ?
 何だっけなぁ〜 ずいぶん、”昔の歌”なんだけど
 何の歌だか忘れちゃったよ」

「そうなの?
 なら、ママに訊いてみたら?」

「いや、きっとママも知らない歌だよ」



そして
もうひとつ気がついた事がある

あのメロディを口ずさんでいる時
ボクはとても穏やかな気持ちになっていた事に

ともすれば
”現実”の中では
ちょっとしたケンカもあるし
ガマンをしたり
思うようにならない事もある

それは仕方の無い事だと思いながらも
心の何処かで
そんな自分が嫌になっていたりする

「なんかもう、どうでも良いかなぁ〜」

そんな時
独り言のように口をつくメロディ

今でも
ずいぶん、キミに助けられていたんだね

10年前の後悔がまた蘇る



もし、あの時
ボクがもう少し大人だったら
キミを失くさないで済んだだろうか?

もし、あの時
ボクがキミの気持ちのほんの一欠片でも
思いやってあげる事が出来ていたら
キミを悲しませないで済んだだろうか?

若気の至りだったと何度も自分に弁解をした

それを若さのせいにして
ボクは自分と向き合ってこなかった

でも
それじゃダメなんだよね?

何年も経ってしまったけど
それに気がつかせてくれたのもキミだったよ

それからボクは
少しづつだけど変われたような気がする


あの時
キミの口ずさんだメロディに懐かしさを感じたのも
こうして今でも穏やかな気持ちになれるのも

きっと

あのメロディが
キミそのものだったからなのかも知れないね

ありがとう

ボクの一番好きだったメロディ





























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