もどかしい月のジレンマ







「こんなに傍にいるのに
 心はまるで何万キロも離れているみたいだね」

それが君の最後の言葉だった。


そんな風に君が思い続けていただなんて
僕は最後まで気がつかなかった。

僕の言葉が足りなかったのかもしれないし
僕の思いやりが足りなかったのかもしれない。

もしかしたら
言葉よりも思いやりよりも
君は
僕のひとつの行動が欲しかっただけなのかもしれない。

歯車が一度狂い始めてしまったら
何を言っても
それは言い訳にしか聴こえなかったんだろうね。


僕は思い当たる全てのことを
ひとつひとつ心に思い起こしては
そこに黄色のマーカーを引いて自分に確かめた。

「あれは・・・あの時は・・・」

やがて黄色一色に塗られた僕の心は
夜空に寂しく浮かぶ満月になった。



暗い闇の中 ぽっかり浮かんだ満月。



月が明るければ明るい程
周りの星は見えなくなっていく。

もどかしい月のジレンマ。


だけど
満ちた月ならいつかは欠けていくだろう。

そうしたらきっと
今は見えなくなっている周りの星たちも
また、見えるようになるはずだね。


僕は部屋の灯りを消すと窓を開けて月を探した。

流れる雲に見え隠れして
朧な月は色を変えていった。

何時間もずっと見ていたような気がする。
いや、そんなに長い時間じゃなかったかもしれない。

だけど、もうそんなことはどうでもいい。

月がどんな色に見えたとしても
もう黄色のマーカーはいらない。

やっと気が付いたんだ。

僕に足りなかったもの。
見えるものしか見ていなかったこと。

大切なモノの本質はそんなところにはないのにね。


もどかしい月のジレンマ。
それは僕が作った愚かな僕自身だ。



































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