長い、長い、長い夢







長い、長い、長い夢を見ていたようだ。


それにしてもリアルな夢だった。
色々な感触、感覚もほとんどと言って良いくらい覚えている。

嬉しかった事、哀しかった事、辛かった事・・・

そんな全てが鮮明に記憶の襞に刻印されているようにさえ思う。


いったい何年分の出来事を夢に見ていたのだろう?


「ねぇ、大丈夫? ずいぶんうなされていたわよ」

優しく微笑む顔が目の前に見えた。


一番”愛している”女性。


「君がそこにいるって事は・・・
 やっぱり、夢・・・だったのか?」

「何よ。変な顔をして。どうしたの?」


そっか、30年分の夢を見ていたんだ。
道理で、ぐったり疲れている気がするのも頷ける。


良かった!

全部、夢だったんだ!


君と別れた事も
その後の次々と起きたあまり良く無かった出来事も
つい、昨日の事に思えた事も全部、夢だったんだ。


「ねぇ?」

「なぁに?」

「抱きしめさせてくれないか?」

「うふふ。どうしたの?
 よほど悪い夢でも見た?」


そう言うと君は優しくキスをしてくれた。


重なり合う唇と唇の隙間から微かに洩れる甘い吐息。
指に触れる君の柔らかな肌の温もり。


感じる!


これが、そう現実なんだ!


長い、長い、長い夢を忘れさせてくれるくらい
強く、強く、強く抱きしめさせてくれ。




・・リリ・・リリリ・・リリ・・リリリ・・・



はっ!?

ここは・・・?


聴き慣れた目覚ましの音に
ガバッと飛び起きて辺りを見渡しても誰もいない。
一番考えたくない結論を思う。

それは絶望だ。


なんて事だ!

思わず自分の顔を両の手で覆う。

ハッ!?
この感触・・・?

両の手をまじまじと見つめた。


皺だらけのやつれた指。
これはもはや20代の男の手では・・・ない。


夢?

あれが夢?

今見ていた・・・あれが?


こんな夢なら見ない方が良かった・・・
後悔をする為に見る夢なら見ない方が良い。


でも・・・待てよ。


これが夢って事はないか?

ないと言い切れるか?


夢であって欲しい。
どんなリアルな感触でも感覚でも構わない。

どんな悪夢だって構わない。

それが夢でさえあってくれたなら・・・



長い、長い、長い夢。



今いる私は何処に存在しているのだ?








































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