サンタクロースの見た夢






良い子にしていたら
クリスマスイブの夜にトナカイに引かせたソリに乗って
サンタクロースがプレゼントを持ってやって来る。

サンタクロースはいつも笑顔で、そして白ヒゲを生やした恰幅の良い老人。
白のトリミングのある赤い服を着ていて赤いナイトキャップを被っている。
そして肩に担いだ白い大きな袋にはクリスマスプレゼントを入れていて
クリスマスイブの一晩の間に世界中の子供達にプレゼントを配って回る。

一般的なサンタクロースのイメージって大体そんなところでしょうか。



さて、それでは

サンタクロースってそもそも何者なんでしょうか?
そして、それは人々にとってどんな存在なんでしょう?

かつての支配階級が人々の宗教心を利用して
自分達に都合の良いように人々に信じ込ませた単なる寓話なんでしょうか?

つまりは、ドラゴンやユニコーンのような<想像上の生き物>なんでしょうか?

それとも神様のように
目に見えないけど人々の心の中に確かに存在しているものなんでしょうか?

もちろん、実在した聖人をモデルに語り継がれてきたという説もありますね。


以前、こんなことを書いたことがあります。

「実はサンタクロースの身体は
この世に生まれてくる事の出来なかった
 たくさんの子供達の魂で出来ているのです。
だから、<子供達に”幸せ”を与える事>
それがサンタクロースの願いであり使命なのです。
そして、サンタクロースのプレゼントは何もオモチャだけではありません。
子供達が本当に望んでいるモノや幸せを感じられるモノ。
例えば、それは夢だったり希望だったり想い出だったりと
そんな形が無いモノだと言う事もあるのです。」

  *2013年クリスマスストーリー
    『サンタクロース見習いの恋』より



サンタクロースは”生まれた”時からサンタクロースです。

大人に成長をしてサンタクロースという職業になった訳ではありません。
何かの試験に受かったり何かの修行を重ねてなった訳でもありません。

もちろん、なりたくてなれる訳でもありません。


サンタクロースは見る人によって様々な見え方をします。

或る人にとっては髭を生やした恰幅の良い老人に見えたりします。
別な或る人にとっては血色の良い立派な若者のように見えたりします。
子供によっては自分と変わらない友達のように見えたりします。
もしかしたら自分のお父さんに見えるかもしれません。

サンタクロースが子供たちに配るプレゼントは夢や希望です。
もらった子供たちがそれらを自分の欲しかったものの”形”にしているのです。
時々、プレゼントが自分の欲しかった”形”と違う時もありますが
それはきっと、”形”にするのを失敗してしまっただけなのかもしれません。


サンタクロースはこの世界にたった一人なんでしょうか?
それはずっと同じ一人の”人物”なんでしょうか?
それとも代々誰かから誰かに引き継がれて今に至っていたりするんでしょうか?

それとも世界の何処かにサンタクロースの町があって
そこには何人か何百人かのサンタクロース達が住んでいるんでしょうか?
サンタクロースにもやはり家族がいるんでしょうか?


サンタクロースはいったいどんな夢を見るんでしょう?
それはやはり世界中の子供達の幸せそうな笑顔なんでしょうか?

それとも・・・





或る日、居間の暖炉の前に置かれたロッキングチェアに揺られて
ウツラウツラしていた男は夢を見ていました。



それは随分と遠い日の出来事のようでした。

石で組み上げられた建物が幾つも並ぶ街の石畳の道を男は歩いていました。
するとそこへ貧しい身なりの少年が駆けて来たかと思うと
そのまま勢いよく男とぶつかってしまいました。

「痛い!」

ぶつかったはずみで男の子は地面に転がって尻もちをついていました。

「おっと、危ないなぁ。大丈夫かい?」

少年に手を差し出しながら男は優しく声をかけました。
少年は怯えたような瞳で大事そうに抱えていた一本のパンを後ろ手に隠しました。
その時、通りの向こうから誰かの怒鳴る声が聞えました。

「おい、こらぁー! 待たんか!」

大柄な中年の男が息を切らせてこっちに走って来るのが見えました。
この間までの長い戦で家を失ったり親を亡くしたりして
貧しい暮らしをしている子供達がこの街にはたくさんいました。
全てを察した男は少年の手を取ると言いました。

「さっ、こっちだ」

男は少年を連れて細い路地に駆け込みました。
そして少年の手を取りながら右へ左へと路地を曲がって行きました。
迷路のような路地を幾つも曲がって、いつか大きな通りに出ました。
それから男は辺りを用心深く見回して
さっきの男が追って来ていないことを確認すると
少年の前に屈み両手をその肩に当てて言いました。

「さぁ、もう大丈夫だ。坊主、帰る道は分かるな?」

そう言うと男は少年の頭を優しく撫でました。

「ボク・・・」

少年は男を見上げると何かを言いかけました。
しかし、男はそれを止めるように唇に人差し指を当てて言いました。

「良いさ。何も言わなくて良い。
 時には生きることの方が何より大事だってこともある。
 今はそれで良い。でも、忘れるなよ。
 もし今、何かを感じているとしたらいつかそれを他人の為に遣いなさい」

少年は黙って頷くと、男に向かって深く一礼をして駆けていきました。



薄い板壁で間仕切られているだけの四軒長屋が
いくつも並んでいる町外れの長屋街がありました。

住んでいる人はみなその日暮らしの仕事をしていて貧しい所です。

辺りは街灯もなく既に真っ暗になっていました。
立て付けの悪い板の戸をドンドンと叩く音に気が付いて
男が戸を開けるとそこに見慣れた少女が目に涙を浮かべて立っていました。

「先生・・・」

「おや、こんな時間にどうした?」

「おとっつぁんが・・・」

「そうか、また咳が止まらないのか?」

少女は黙って頷きました。

「ちょっと待ってなさい」

そう言うと男は奥の部屋に行き、程なくして戻って来ました。

「いつもの薬だ。これを持って行きなさい。飲ませ方は分かるな?」

「うん・・・でも」

「どうした?」

男が訊いても少女はただ黙ってモジモジしているだけでした。

「そうか、お金か?」

少女は小さく頷きました。

「ははは、気にしなくて良いさ。
 おとっつぁんがまた元気になって働けるようになってからで良い。
 それより、さぁ早く帰って薬を飲ませてあげなさい」

「いつもありがとうございます」

少女は深々とお辞儀をすると男の長屋を出て家路を急ぎました。



靴磨きの少年は通りを歩く人影が疎らになってくると
ため息交じりに呟きました。

「今日はもうダメだな」

ポケットの中から小銭を取り出すとそれを数えました。

「いつもの半分か・・・やっぱ、クリスマスは早く人がいなくなっちゃうな」

「クリスマスって?」

並んで座っていた妹は目を輝かせて言いました。

「クリスマスってあのクリスマス?」

「あのって、どのクリスマスだよ?」

「サンタのオジサンがプレゼントを持って来てくれるんでしょ?
 友達が言っていたもん。ねぇ、家にも来るかな?」

「家には来ないよ。家は貧乏だもの」

「貧乏だと来ないの?」

妹は哀しげに呟きました。

「あぁ。サンタさんにだって都合はあるんだよ。
 それより、さぁ帰ろう。母さんが待ってる」

「うん・・・」

二人は連れだって歩き出しました。
少し歩くとイルミネーションで飾られてひときわ明るいお店がありました。

「あっ、ケーキ屋さんだ!」

妹は兄の手を払うと一目散に駆け出しました。

「あっ、待って!」

兄は慌てて妹の後を追いかけました。
店の前まで行くと妹はケーキ屋さんのショーウインドウに見入っていました。

「わぁ-、きれい」

その様子を見て兄はポケットの中の小銭を数えてみました。
しかし、さっき数えたのと変わってはいません。

「ケーキを買ってしまうと家にお金を持って帰れないな」

可哀想だけど仕方がありませんでした。

「さっ、帰るぞ。母さんが心配するよ」

「うん・・・でも・・・」

妹はなかなかその場を動こうとはしませんでした。
業を煮やした兄は強い口調で言いました。

「帰るぞ! このお金を持って行かないと明日のパンが買えなくなるんだ」

「・・・分かった」

妹は渋々歩き出しました。
その時です。
見知らぬ男が妹に声をかけてきました。

「ねぇ、君たち。お願いがあるんだけどな」

「何ですか? 僕たちはもう帰らなきゃならないんです」

兄は妹をかばうようにその前に立つと男を睨み付けて毅然として言いました。

「いや、無理もないか。いきなりだもんな。
 僕は決して怪しいもんじゃない。信じてくれ」

男は懇願でもするかのように両手を拡げると
続けて予想もしていなかったことを言いました。

「少しで良いんだ。オジサンの家に来て一緒にケーキを食べてくれないか?」

「ケーキ? 本当に?」

妹は歓喜の声を上げました。

「ダメだよ。知らない人について行ってはいけないって母さんが言ってただろ?」

「うん・・・」

「いや、ホント少しで良いんだ。オジサンが悪い人に見えるかい?」

「見えない!」

妹はケーキ食べたさでか嬉々として即座にそう答えました。

「でも・・・」

責任感の強い兄はまだ渋っています。

「すぐそこの家なんだ。
 もし何かあれば大声を出せばすぐに近所の人が駆けつけて来るよ。
 だから心配しなくて良いんだよ」

「ねぇ、少しくらいなら良いでしょ?」

妹は兄の服の裾を掴むとそう言って兄にねだりました。

「うん・・・」

「良し決まった。それじゃ早速行こう!」

男について少し歩くと一軒の家のドアを開けました。

「まだ妻は帰ってないようだ。
 寒かったろう? さぁ、こっちにおいで」

男は居間に二人を迎え入れると
棚の上の写真の前に置いてあった白い箱を持って来てテーブルの上に置きました。

「ちょっと待ってて。温かいミルクを持って来るよ」

そう言って男が台所に向かうと兄は棚の前に行きその写真を見ました。
自分と同じくらいの歳の男の子の写真でした。
その写真を見ていると
男は湯気の立ったふたつのカップを持って居間に戻って来ました。

「あぁ、それかい? オジサンの息子なんだ。
 三年前に事故で亡くなってね。
 で、息子の為にケーキを買って来たんだがオジサンは甘い物が苦手でね。
 代わりに君たちが食べてくれると息子も喜ぶと思うんだ」

そう言いながら男は二人の目の前で白い箱を開けました。

「わぁ-、きれい! イチゴのケーキだ!
 オジサン、本当にこれ食べて良いの?」

「もちろんだよ」

男は笑顔で答えました。

二人は温かいミルクを飲みながら夢中になってケーキを頬張っていました。

と、そこに玄関のドアが開いて女の人が入って来ました。

「あら、あなたたちは?」

「あっ、お邪魔しています。
 あの、僕たちオジサンに誘ってもらって・・・」

そう言いながら辺りを見回しましたが今まで居たはずの男の姿は見えませんでした。

「えっ? オジサン、どこ?」

兄は一瞬、最悪のことを考えてパニックになりました。

「あの・・・ごめんなさい。でも、嘘じゃないんです」

兄は一生懸命にさっきまでのことを女性に話しました。

「ホントです。嘘じゃありません!」

泥棒呼ばわりをされるかと思っていた兄の意に反して女性は微笑み返しました。

「えぇ、信じるわ。あなたたちのこと。
 あの人のやりそうなことだもの。ねぇ、あなた?」

そう言って女性は棚の上の写真に目をやりました。
二人もそれにつられてその写真に目をやりました。
そこには仲良く写っているさっきのオジサンと息子さんがいました。

「去年もクリスマスに何処かの子供を家に招待してケーキをご馳走していたわ。
 その前の年のクリスマスの日にもね。
 実はね、二人共三年前に事故で亡くなっちゃったの。
 でも、それからずっとクリスマスになると誰か子供を家に招待しているの。
 その子たちが時々家に遊びに来てくれるおかげでちっとも私も寂しくないのよ。
 だから、あなたたちも遠慮しなくて良いのよ。
 いつでも遊びに来てちょうだいね」

女性に丁寧にお礼を言うと二人は帰り道を急ぎました。
その途中で妹は兄に言いました。

「ねぇ、お兄ちゃん。私たちサンタさんに会ったんだね」

「そうだな。最高に美味しいケーキだったな」

「うん」

妹は嬉しそうに答えました。



その夜、若い母親は産まれたばかりの赤児を抱えて
降りしきる雪の中を当てもなく歩いていました。

左手に赤児を抱え直して右手でコートの中をまさぐると
数枚のコインがチャリチャリンと音を立てました。

「パンの一個くらいは買えるかしら。
 赤ちゃん、最後の晩餐がこんなでゴメンね。
 でも、もうすぐ楽になれるわ」

まだ名前も付けて貰っていない赤児は
母親の腕に抱かれて少し震えながらも大人しく寝ていました。

パン屋を探しながらどれだけ歩いたでしょう。
その母親はふと暖かそうな灯りの灯った建物の前まで来ると自然と足が止まりました。
屋根の上に掲げられた十字架。そこは教会でした。

母親の脳裏には二つの考えが浮かんでいました。
ひとつは赤児をここに捨てて行くことでした。
運が良ければここで育てて貰えるでしょうし
そうすれば少なくとも赤児はもう空腹の心配もなく寒さに凍えることもないはずです。
しかし、愛する赤児と離ればなれになってしまいます。

もうひとつの考えは最後のパンを分け合った後で一緒に死を選ぶことでした。
そうすれば死んでも尚、赤児と一緒にいられるんだと思ったのです。

「どっちが幸せなんだろう?
 神様、この子にとって幸せなのはどっちなんでしょうか?」

教会の屋根の十字架を見つめながらそんなことを自問自答していました。
それでもひとつに答えを決めかねて
何度となく教会の前で行ったり来たりを繰り返していました。

その時、教会の正門の脇の戸が開いて中の灯りが雪の降る道を照らしました。
母親がその方を見ると初老の神父が穏やかな微笑みを浮かべながら近づいて来ました。

「どうしたね? いつまでもそんな所にいたら寒かろう。
 おや、赤児じゃないか。こんなに震えて可哀想に。
 さぁ、中に入りなさい」

神父は優しく赤児の頭を撫でると母親を教会の中へと招きました。

「でも・・・」

「お前さんの為じゃない。この赤児の為じゃ。さぁさ、早く入りなさい」

教会の中の小さな食堂の暖炉の前にイスを持ってきて母子を座らせると
神父は母親にはパンと温かなスープを
そして、赤児には温かなミルクに浸したパンを振る舞いました。

「あの・・・」

ためらうように母親が口を開きかけると
神父はそれを止めて優しく言いました。

「人は皆、様々な事情を抱えておる。
 わしの勤めは神に代わって人々の話を聞く事ではある。
 がしかし、無理に話すことはない。
 何より、赤児は誰もみな等しく神の子なのじゃ。
 その子らをを助けるのもまた、わしの勤めなのじゃよ。
 だから何の心配も遠慮もいらぬよ」



けたたましいサイレンの音が鳴り響いていました。
空襲警報です。

少年が妹の手を引いて家の外に出ると大人達が口々に叫んでいました。

「もうすぐこっちに来るぞ!」

「みんな早く防空壕に逃げるんだ!」

西の空を見ると山の向こうの空が真っ赤になっているのが見えました。
隣の町の方向です。

少年が立ちすくしていると通りがかった大人が走りながら声をかけて行きました。

「おい、早く逃げるんだ!」

その声に我に返った少年は妹の手を引くと防空壕に向かって一目散に走り出しました。

辺りは大人も子供も入り交じってパニックでした。
妹の手を引いていては少年も思うように走れません。

「大丈夫か? さぁ、兄ちゃんがおんぶしてやるから」

少年は妹を背負ってまた走り出しました。
空襲警報で街中は電灯を消している為、足下は真っ暗でした。
それでも少年は一生懸命に走りました。

もうすぐ防空壕という辺りで何かに躓いて少年は転んでしまいました。
ビックリして泣き出した妹の手をまた握って走り出そうとしましたが
妹はいっこうに走ろうとはしませんでした。

「どうした? 大丈夫か? 何処か痛いのか?」

妹はただ泣いているだけです。
見ると膝から血が流れていました。

その時、何処からか爆撃機の音が聞えてきました。
爆撃機はもうすぐそこまで来ているのでしょう。

そこに通りかかった男は立ち止まると叫びました。

「おい、早く逃げるんだ! ん? どうした? ケガをしたのか?」

男は妹の様子を見ると、とっさに抱きかかえて少年に向かって言いました。

「お前は大丈夫か? 走れるか? よし、走るぞ!」

防空壕の前まで着くと中はもういっぱいのようでした。
男は防空壕の入り口のドアを叩くと中の大人に声をかけました。

「子供二人だけでも入れてくれんか?」

「いや、しかしもういっぱいなんだ」

中から誰かの声がしました。

「そこをなんとか頼む!」

声の主でしょうか。
ドアが開くと中から顔を出した男は三人の顔を見比べて言いました。

「しかし、見ての通りだ。もう中は一杯なんだ。済まない」

「いや、子供二人だけでも何とかならんか?」

少年と妹を前に出すと男は懇願しました。

「あんたはどうするんだ?」

中の男は訊きました。

「俺は何とでもなる。この子達だけは頼む!」

「わ、分かった。さぁ、奥へ入るんだ」

中の男に促されて奥へと向かう途中で振り返ると少年は叫びました。

「おじさん、ありがとう!」

「良いから、さぁ早く中へ行くんだ!」

男は急かすように少年たちに手を振ると
それから急いで防空壕を離れて逃げ込む場所を探して走りました。

男がやっとの思いで廃墟のような建物の物陰に走り込んだその時です。
ヒューン、ヒューンといういくつかの音が聞えたと思ったら
まさにさっきいた防空壕の真上に爆弾が落ちてもの凄い煙と炎を噴き上げました。

それを茫然として見ていた男は
握った指の爪が手の内側に食い込むくらい拳を強く握ると
やがて身体の内側から沸き上がった激しい慟哭が彼の喉を引き裂きました。



「ウォーーーーー!!!」

その自分の咆哮に男は飛び起きました。
額からはいくつもの汗がしたたり落ちていました。

「はぁはぁはぁ・・・」

「セイント、どうなされました?
 ずいぶんとうなされていましたが」

部屋に入ってきた見習いの青年が男に尋ねました。

「いや、大丈夫だ・・・」

セイントと呼ばれた男は声を振り絞ってそう答えました。

「また、いつもの夢ですか?」

「うむ・・・あれはいったいいつの、そして誰の記憶だったんじゃろ?」

「えっ?」

「いや、何でもない。で、準備はどうじゃ?」

「はい、順調です。
 今年も赤鼻たちはやる気満々の様子で早くも庭を駆け回っています。
 赤鼻たちも子供たちの喜ぶ顔を見るのが待ちきれないのでしょう。
 一年に一度のクリスマスイブの夜ですからね、無理もありません。
 ところでセイント、今年の積み荷はどうしましょう?」

「そうだな。今年は夢よりも希望が多めの方が良いじゃろ」

「かしこまりました、すぐに準備を致します」

「うむ、頼んだぞ」

部屋を出て行く青年の背中を見ながら男は思っていました。

「ワシは今までずっと子供たちの夢で有り続けることを願ってきた。
 だが、現実はどうだ?
 夢よりも希望が必要な時代とは本当に子供たちの幸せな時代なのだろうか?
 いつかまた、子供たちに夢だけを与えられる世界になれば良いのだが。
 いや、本当はワシなど存在しない世界になった方が良いのかもしれんな」





































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