Y氏の憂鬱な回想







苦節10年などと言う事があるけど
それじゃ、20年ならどんな冠がつくのだろう?


何を隠そう
4月29日はY氏の20回目の結婚記念日である

(出来る事なら本当に隠してしまいたい・・・
 と、独り事のように呟くY氏であった)


20年前のこの日

Y氏はこの日が
後に運命に翻弄をされる日だと言う事を
何も知らずに結婚をしてしまったのだ

いや、当時は誰一人として
そんな事を知っていた者は
いなかったには違いないのであるが


GWに限らず
3連休とかに結婚式をすると
大概は出席者から
『何でこんな日に結婚式をすんねん!(怒)』
とかブーイングが出るものである

(まぁ、私だって間違いなくそう言います)


「までも、3月〜5月は仕事も忙しいし
 他に都合の良い日は無いし
 まぁ〜GWだけど真ん中の日にするよりは良いべ」

盗人にも一分の理とは良く言ったもので

まさに、そんな屁理屈にも近い根拠で
GWの初っ端とは言うものの
4月29日
悪友達の大ブーイングの中
Y氏は結婚式を強行しました


何より
記念日を忘れる等と言うのは
断じて男として、夫としては
やってはいけないと言う強迫観念があったのです

例え
一度でも妻の誕生日を忘れるとか
結婚記念日を忘れようものなら
後々、”事”がある毎に妻は夫を責め立てるだろう

ですよね?

(いったい、誰に同意を求めているのやら!?
 って、言うか・・・
 ”事”って例えばどんな事?(笑))


悪友達のブーイングよりも
後々、結婚記念日を忘れて
妻にそしりを受けるよりはマシだと考えたのでした


何の変哲もない普通の日付けの
普通の土日を結婚式の日に選べば
”その日”は毎年絶対に曜日が変わります

曜日が変われば仕事の忙しさの中
忘れる可能性はグッと高くなります

例えば、4月17日だとか
5月21日なんて誰が覚えていられるでしょう?

でしょ? でしょ?


でも!

祝日なら曜日が変わったって必ず祝日です

ねっ?
これなら絶対に結婚記念日は忘れないでしょう?

ましてや、4月29日は『天皇誕生日』です

「何と言っても『天皇誕生日』だ
 俺が忘れていても
 テレビや新聞のニュースは忘れないはずだ!
 俺ってば、何て頭が良いんだろう?」

ニンマリとほくそ笑むY氏なのでした

「うん、完璧だ!」


ところが
運命とは如何に皮肉なものなのだろうか!


4月29日

確かに
未だにこの日は祝日には違いないのですが・・・


Y氏が結婚をした当時は『天皇誕生日』でした

それが
Y氏が「夫」から
「お父さん」になるのに合わせるかのように
この日は急に『みどりの日』になり

Y氏が「お父さん」から
「給料を持ってくる同居人」になるのに合わせるかの如く
気がつけば
この日はいつか『昭和の日』になっていたのです

しかも
現在の『天皇誕生日』は12月23日に変わり
『みどりの日』は5月4日に変わりました


「あれっ? 結婚記念日って・・・?
 ん〜 いつだっけ?
 4月の・・・
 確か、『天皇誕生日』・・・じゃなくって
 えーっ、そうそう!
 『みどりの日』・・・
 えっ? それは5月4日だって?
 あれ? そうだっけか?
 いやいや、マジ?
 じゃ・・・じゃ・・・
 あれっ? 今は何の日だっけ?
 ってか、そもそも何日だったっけか?
 29日・・・で、良いんだよな?
 えー!?
 もし、違ってたらどうすべ?
 誰に訊いたら分かるんだべか・・・」

パニくるY氏(冷や汗タラタラ)


4月29日

これほど名称の変わった祝日はかつてあっただろうか?


翻弄される運命の日

それ以上に妻に翻弄され続けたY氏の20年間


「で・・・結局、記念日はいつだ?
 やっぱ、今日で良いのかなぁ・・・
 そうだ! とりあえず、エサで様子を見てみよう」


”エサ”を買って来ると
帰宅するなりY氏は確かめるように言ってみた

「あの、これ食べる?」

「えー? 何? あー、ケーキ♪
 いったい、どうしたの?」

「ん〜 まぁ、あれだ。何となく食べたいだろうってね」

「やったー♪ ねぇ、みんなケーキだよ♪
 さっそく食べる?」

モノがケーキと見るとすこぶる機嫌が良くなる妻

と、そこへ
何事かと娘らが寄って来た

「あれっ? ケーキだ♪ お父さん、どうしたの?」

「今日って何かあったっけ?」

「まぁ、そう言う事だ」

さりげなくトボけながら妻をチラッと見るY氏

妻はもうケーキにしか目が行っていない様子だ

『だめだ・・・表情が読み取れない』

ちょっと焦るY氏


「そう言う事って・・・何それ?」

娘が言う

「何でも無い。食べないなら別に良いぞ」

「んな、訳ないっしょ♪」


1人2個の”エサ”をアッと言う間に食べ尽くした奴ら


ん〜 結局、今日で良かったのかな?

満足げな妻の顔をチラッと見ながら
もし、違っていたらと
Y氏は少しだけ憂鬱になっていた

もし・・・

もし、間違っていて
後で他の日だと分かってももうそうは小遣いは保たない

『神様!
 どうか、今日で正解でありますように!』

そう祈らずにはいられない無神論者のY氏であった












































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